「遠隔操作ウィルス事件」の取材のために、朝日新聞や共同通信の記者が「真犯人」を名乗る男のメールサーバに不正に侵入したとされる事件で、東京地検は7月上旬、書類送検されていた記者5人について「起訴猶予処分」とする方針とした。
報道によると、記者らは昨年10月~11月、一連の遠隔操作事件の取材活動のなかで、「真犯人」を名乗る人物が犯行予告のメールを送信する際に使用したアカウントに不正にログインしたとして、不正アクセス禁止法違反の疑いで6月に書類送検されていた。地検は今回、5人がいずれも不正アクセスの事実を認めていること、また取材目的だったことなどに鑑みて、悪質性が低いと判断したという。
ところで、この「起訴猶予」という言葉、なにやら耳慣れないが、具体的にはどのような処分なのだろうか。「悪質性が低い」というのは、いったいどういうことなのだろうか。置塩正剛弁護士に聞いた。
●検察官が「裁判にかける必要はない」と判断した
「検察官は、捜査機関から送致(送検)された事件について、刑事裁判にかけるかどうか、つまり起訴するかどうかを決める権限を持っています。
捜査の結果、検察官が『嫌疑なし』あるいは『嫌疑不十分』と判断した場合には、起訴しても有罪にすることができませんので、検察官は不起訴処分をすることになります」
――しかし、今回は本人たちも「事実を認めている」のでは?
「そうですね。本件では、記者らは不正アクセスの事実を認めているようですので、犯罪の嫌疑があるとは言えそうです。ところが、検察官が嫌疑十分と判断した場合も、起訴されないことがあるのです。
刑事訴訟法には『犯人の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる』(248条)と書かれています。
つまり、諸事情を考慮して、起訴できるだけの嫌疑があるけれども、裁判にかける必要があるといえない場合には、検察官の判断で不起訴処分にすることができるのです。これが『起訴猶予』です」
――なぜ記者たちは「起訴猶予」に?
「今回、記者らが不正アクセスをしたのは取材目的です。財産的な利益を得ようとしたとか、好奇心からプライバシーをのぞき見したのではありません。検察官は、そのような事情を考慮して、記者らを裁判にかける必要はないと判断し、『起訴猶予』の方針としたのでしょう」