複数の家族が巻き込まれ、長期に渡って複雑な人間関係が繰り広げられる中で起きたとされる、尼崎連続変死事件——。事件の"真相"解明は、首謀者とされた角田美代子容疑者が昨年12月、留置所内で自殺したことにより難しくなったとみられている。
だが、事件の裁判はまだ終わっていない。すでに亡くなっている角田容疑者だが、沖縄県の崖から転落死した男性に飛び降りを強要したとして、6月10日に殺人容疑で書類送検された。つまり「被疑者(容疑者)死亡のまま書類送検」である。
この言葉、しばしばニュースで見かけるが、すでに被疑者が死亡しているにもかかわらず、送検される理由はどこにあるのだろう。死亡した被疑者が起訴され、有罪判決を受ける可能性はあるのだろうか。川口直也弁護士に聞いた。
●なぜ、死者でも「送検」されるのか?
「裁判では、死者に有罪・無罪の判決を下すことはありません。裁判の途中で被告人が死亡した場合、『公訴棄却』として裁判を打ち切ることが、刑事訴訟法で決まっています。つまり、被疑者が死亡している場合、必ず不起訴となります」
――ではなぜ、被疑者が死亡後であっても送検、すなわち、検察庁に送致されるのか。
「警察には最終的に事件を処理する権限がないからです。起訴する(裁判にする)かどうかの判断をするのは、検察官の役割です。刑事訴訟法も、警察が犯罪捜査を終了したときは、原則として容疑者の身柄や事件の書類を検察に送ると定めています。被疑者が死亡しているからといって、警察が勝手に判断できないということです」
——必ず不起訴になるなら、書類を送られた検察は何をする?
「検察官は『公益の代表者』として、事件の捜査が適切に行われたかどうかを、監督する権限があります。被疑者が死亡してしまった場合でも、捜査がうやむやに終結し、不適切な処理が行われたりすることがないよう、最終的にチェックする役割を果たしているのです」
——では、今回の書類送検が持つ意味は?
「今回の送検では、警察が作成した角田美代子容疑者についての捜査資料が、検察官に引き継がれます。その結果、他の共犯者らが果たした役割を、事件の全体像の中できちんと位置付けることが可能となるでしょう。
角田美代子容疑者自身は不起訴となりますが、他の共犯者らに対する適正な処罰を実現するという観点からは、重要な意義があったと言えます」
なるほど「書類送検」には、このように様々な側面があるということだ。今回の送検が、事件の真相解明への足がかりとなることを願おう。