女装した56歳の男が、女湯に入った疑いでこのほど逮捕された。事件が起きたのは、石川県野々市市の公衆浴場。男は女性の裸を盗み見る目的で、金髪かつらにミニスカートを身につけて、女湯の脱衣所に侵入。最終的には全裸で浴場にいたところを従業員に見とがめられ、駆けつけた警察官に建造物侵入容疑で逮捕された、と報道されている。
スポニチによると、従業員が洗い場の椅子に裸で座っていた男を発見し、「男性ですよね」と声をかけたところ、男は「はい」と素直に認めたという。捜査関係者も「女性に見せるには無理があった」と話しているそうだ。それはそうだろう。常識的に考えて、いくらかつらをかぶっていても、全裸の中年男を女性と見間違えるとは考えにくい。しかもかつらが金髪となれば、見た目の「インパクト」も絶大だったのではないか。
裸を見られた女性客のショックもさることながら、男のそんな姿を「見せつけられた」関係者たちにも、何らかの精神的なダメージが残っただろうと推察される。では、今回はなぜ、逮捕容疑が「建造物侵入罪」だったのか。異様な格好で他人の裸を見ていたことは、そのほかの罪にはあたらないのだろうか。尾崎博彦弁護士に聞いた。
●全裸でいたのだから、「公然わいせつ罪」にあたらないか?
「『男性が全裸で女湯』と聞けば、『公然わいせつ罪』が思い浮かぶかもしれません。しかし、そもそも公衆浴場内で全裸になっていたことがわいせつとは言えませんし、浴場は閉鎖的な空間ですから『公然性はない』とも考えられます」
——軽犯罪法はどうか。
「軽犯罪法では、『公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者』や、『正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者』は拘留又は科料に処せられます。
しかし前者については浴場が『公衆の目に触れるような場所』とは言い難いですし、後者についても自ら堂々と浴場に入っている以上、『ひそかにのぞき見た』という法律の文言にはなじみません。したがって、軽犯罪法の成立も疑問です」
——性犯罪でよく話題になる迷惑防止条例は?
「検討の余地はあるでしょう。もし石川県の迷惑防止条例で該当する可能性があるとすれば、第3条でしょうね」
そこには、次のようなことが書かれている。
「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人に対し、みだりに、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 人の身体に、直接又は衣服その他の身に付ける物(以下「衣服等」という。)の上から触れること。
(2) 衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影し、若しくは録画すること。
(3) 前2号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。」
この石川県の迷惑防止条例3条について、検討してみると・・・
「問題となり得るのは、(2)か(3)ということになりそうですが、やはり『のぞき見』とは言い難く、『金髪全裸で女湯に入る』のが『卑わいな言動』かどうかも議論の余地がありそうです」
——どれも成立は難しい?
「可能性はあります。ただ、明らかに成立する建造物侵入罪に比べると、他はどれも議論の余地があるうえ、刑罰もはるかに軽い。つまり、あえて問題とする必要がなかったということでしょう」
このように尾崎弁護士は説明する。結局のところ、公衆浴場の女湯という「建造物」に、その管理者の意思に反して「侵入」しているので、「建造物侵入罪」(刑法130条)が成立し、それが一番明確ということのようだ。「なぜ?」と思った人は、疑問が解けただろうか。