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ヘイトスピーチ
2013年05月23日 13時30分

敵意をむき出しにした「ヘイトスピーチ」 新たな法律で規制すべきか?

敵意をむき出しにした「ヘイトスピーチ」 新たな法律で規制すべきか?
ヘイトスピーチに反対する言論人が、デモの行われる街の大型ビジョンを使って、メッセージを送る試みも行われている。写真は、有田芳生参院議員のメッセージ

「ゴキブリ朝鮮人を日本から叩き出せ」「韓国人ぶっ殺せ」といった過激な言葉で在日韓国・朝鮮人を激しく非難するデモが、東京・新大久保などのコリアンタウンで頻繁に繰り広げられ、問題になっている。このような敵意をむき出しにしたアピールは「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)だとして、国内外から批判する声が高まっている。

今月には、安倍晋三首相や谷垣禎一法相などの政府首脳があいついで「苦言」を呈するまでに至った。弁護士の中でも「現状は傍観できない段階」だとして、警察に「適切な行政警察活動」を申し入れたり、弁護士会に人権救済申立てを行ったりといった動きが起きている。

「ヘイトスピーチ」に対する問題意識は日に日に高まっているといえるが、具体的にどのような対策をとるべきなのかは、論者によって意見が分かれる。新たな立法をしてヘイトスピーチを取り締まるべきだという意見がある一方で、「表現の自由」を尊重する立場から過度の規制に反対する声もある。そこで、「新たな立法を検討すべき」という中川重徳弁護士と「新しい法規制は不要」という齋藤裕弁護士に、それぞれの主張とその論拠を聞いた。

●中川弁護士「法規制は必要。規制を真剣に議論することそれ自体が重要だ」

「実際に新大久保のデモ現場へ行き、数時間様子を見てきました。『深刻でひどい内容だ』というのが率直な感想です。ヘイトスピーチが人権侵害であることは間違いなく、憲法上保護されるべき『表現の自由』の範囲も逸脱していると考えます。

今までの議論を超えて法規制を考えるべきときが来ています。言論には言論での対抗が理想ですが、言論を超えた重大な人権侵害が目の前にあります。在日コリアンは日本社会で、私たちと隣あって学び、仕事し、生活しています。その彼らに向かって『死ね』とか『殺せ』とか『帰れ』とかいうデモが公然と企画され、呼びかけられて、行われるというのは許せない。特にそれを唱道し、煽動する行為については、刑事罰があってしかるべきでしょう。

もちろん慎重論も理解できます。人権救済申立人の中でもいろいろな意見があります。『表現の自由には優越的地位がある』と憲法の教科書に書いてあっても、日本社会の現状や判例をみると全くハッキリしない。そんな状況下で、表現規制を強める危険について、心配するのは当然のことです。

ですから、立法にあたっては、特に慎重な姿勢で望む必要があります。まず、どの範囲の行為を、どういう形で処罰することが必要・有効なのか決めるため、『ヘイトスピーチ』について綿密な調査をしなければなりません。また同時に、社会的・政治的な取り組みも含めて、新たな法規制よりも人権制限の程度が弱い『他の手段』がないか、実際にやれることはやって徹底的に議論・検証する作業が絶対に必要です。

法律家だけでなく、教育者、政治家、マスコミ、市民も含めた幅広い参加者が、公の場で、事実に基づいた多角的な議論をする。そのプロセスこそが一番大事なポイントかも知れません」

●齋藤弁護士「新たな規制は必要ない。正当な言論活動まで制限される危険がある」

「ヘイトスピーチについて新たな法規制を導入することは、必要ないと考えます。特定の国や社会のあり方に対する『批判』を超えて、敵意をむき出しにしたヘイトスピーチが許されるべきではないことは明白です。しかし、はたしてそれを法律で規制することは、どこまで有効なのか。

法による規制は、有効性が明確ではない一方で、『表現の自由』を侵害する危険が少なくありません。たとえば、ヘイトスピーチの規制は、外国(政府)に対する『許されるべき批判』にも及ぶかもしれません。沖縄では、米軍兵士の度重なる犯罪を受けて「あめりかー(アメリカ人)出ていけ」などと訴えるデモが行われることもあります。しかし法律の文言で、沖縄の人々の切実な声とヘイトスピーチをはっきり区別することは難しいでしょう。

そうであれば、ヘイトスピーチ規制が正当な言論活動にまで及ぶ危険があります。このような『表現内容』を理由とした規制をいったん許せば、政府や大企業批判まで規制する動きにつながりかねないと考えます。

ヘイトスピーチへの対応としては、現在行われている『カウンターデモ』が有効だと思います。また法的には、現行法の範囲内でも、ヘイトスピーチの内容が特定の人に害意を加える内容であれば、脅迫罪が成立する余地があります。さらに、特定の民族の方が営む商店等の前で、執拗にその民族を対象としたヘイトスピーチをすることによって客足が遠のいたような場合には、売上減少分について損害賠償を請求できる可能性があると思います」

特定の民族への「ヘイトスピーチ」に対してどう向き合うべきかは、民主主義社会に不可欠な「表現の自由」と直接からむ問題だけに、日本社会の成熟度が試されているともいえる。いまこそ、さまざまな立場の人が加わった幅広い議論が求められている。

(弁護士ドットコムニュース)

一般民事・刑事事件のほか、レズビアン・ゲイの法的サポート、都立七生養護学校の性教育介入をめぐる裁判、原爆症認定訴訟等にとりくむ。「府中青年の家」の宿泊利用を許可されなかった同性愛者の団体が、都を訴えた事件の弁護も担当し、東京地裁・高裁で勝訴(確定)した。
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