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禅の修行「座禅」 肩を棒で叩く行為は「体罰」にあたるか?
精神を鍛え直したいと考える人たちの間で人気の座禅を、授業に採り入れている高校もあるという

禅の修行「座禅」 肩を棒で叩く行為は「体罰」にあたるか?

木の棒を持った僧侶が背後に立ち、姿勢の乱れた人の肩を打つと、静寂の境内に「バシッ」という音が響き渡る――。座禅といえば、このような光景を思い浮かべる人も多いだろう。座禅を修行方法の一つとする禅宗では、この棒のことを「警策(けいさく、きょうさく)」と呼ぶそうだ。

禅寺の多い京都などでは、一般の人が座禅を体験できる寺もある。禅に興味をもった外国人や、精神を鍛え直したいと願う人々の間で大人気だ。最近では、授業に座禅を採り入れている高校もあるという。

一方で、大阪の高校や女子柔道の五輪チームの不祥事をきっかけに「体罰問題」に世間の関心が集まっており、座禅でバシッと叩く行為についても、「体罰ではないか」といった疑問の目を向ける人が出てきた。これを受けて、禅寺の中には「罰ではなく、集中するために行われる」と書かれた文書を学校に配布して、説明に追われているところもあるという。

たしかに、身体を打つシーンだけを切り取ると体罰に見えてしまうかもしれないが、座禅で叩く行為は、はたして体罰にあたるのだろうか。小池拓也弁護士に話を聞いた。

●学校教育法は「体罰」を禁じているが・・・

学校教育法を見てみると、「校長及び教員は、体罰を加えることはできない」(同法11条)と書かれている。では、授業に導入された座禅で、生徒の肩を警策(木の棒)で打つ行為は、体罰にあたらないのだろうか。

「文部科学省は、『身体に対する侵害を内容とする懲戒(殴る、蹴る等)、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)』を『体罰』と定義しています。

この定義によれば、座禅で身体を打つ行為が注意喚起の刺激であれば,そもそも懲戒ではなく、『体罰』にはあたらないといえます。一方で、身体を打つ行為が叱咤であれば、肉体的苦痛を与える懲戒として『体罰』にあたる可能性が出てくることになります」

小池弁護士はこのように説明する。しかし、学校教育法が教員に禁じている体罰にあたるかどうかはともかくとして、「座禅で身体を打つ行為は『身体に対する有形力の行使』であるので、暴行罪(刑法208条)になるかどうか、別途問題となります」という。

●座禅への参加を求める際は、本人の意思を尊重しなければならない

では、座禅で身体を叩く行為は、暴行罪にあたるのだろうか?

「僧侶が座禅で身体を打つ行為は、わが国の社会で永年にわたり認められてきたものですので、正当行為(刑法35条)にあたるものとして、暴行罪は成立しないと考えてよいでしょう。

これに対し、僧侶以外が座禅で身体を打つ行為については、社会で永年にわたり認められてきたとはいえませんので、参加者の承諾がある場合のみ正当行為になりうると考えます。

つまり、姿勢が崩れるなどして集中を欠くとみなされたら身体を打たれてもよいと、参加者が承諾している場合のみ、正当行為になりうるということになるでしょう」

たしかに、筆者が以前、京都の寺で座禅に参加した際は、むしろ参加者の多くは警策で打たれることを自ら望んでいるように思えたが・・・。

「座禅は仏教に関係しており、特に僧侶が関与したり、座禅をする場所が寺院であったりする場合には、関係が深くなります。

したがって、授業で座禅を取り入れた場合、憲法20条の『信教の自由』や『政教分離原則』、教育基本法15条の国公立学校の『宗教的活動の禁止』に触れないかも問題となります。

実施方法を工夫した上で、生徒及び保護者に十分説明し、承諾を得ておく必要があると考えます。安易に座禅を『必修』として、承諾も得ないまま全員参加させることは避けるべきでしょう」

このように、授業に導入された座禅は、通常の場合は体罰にはあたらないといえるようだが、場合によっては「信教の自由」の問題がでてくるのだというから、なかなか複雑だ。学校には、生徒本人の意思を尊重したうえで、実りある教育をしてほしいと思う。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小池 拓也
小池 拓也(こいけ たくや)弁護士 湘南合同法律事務所
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。神奈川県 弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。

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