カートンダッシュ──。コンビニでタバコを盗む行為を、そんな軽い言葉で呼び合っていた若者たちが、やがて通行人をヘルメットで殴って金を奪う連続強盗事件を起こすまでにエスカレートした。
横浜市や町田市で2024年11月、バイクで移動しながら通行人を次々と襲った4人組による連続強盗事件。この事件で逮捕・起訴された1人、高橋瑠己(るき)被告人の裁判員裁判が3月3日、横浜地裁で始まった。
高橋被告人は友人の松本直人被告人とともに、1カ月半の間に強盗や窃盗など計13件の事件を起こしたとして起訴されている。弁護人は起訴内容について「すべて事実に間違いありません」と認めた。 裁判では、高橋被告人と松本被告人が「年上の先輩」として高校生らを使いながら、次第に犯行をエスカレートさせていった姿が浮かび上がった。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
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●始まりはコンビニ窃盗「カートンダッシュ」だった
検察の冒頭陳述によると、高橋被告人と松本被告人は中学時代からの友人関係で、後輩にあたる高校生ら3人の少年が犯行に加わることが多かった。
最初の事件は2024年10月23日。神奈川県相模原市内のコンビニで、タバコ3カートン(1万7000円相当)を盗んだ。彼らは、この窃盗を「カートンダッシュ」と呼んでいた。
「実行役」をやっていた少年Aは、手口について次のように供述している。
タバコをカートンで出すよう店員に言い、カウンターに置かれたら、次は出入口とは反対側にあるタバコを取るよう伝え、店員が離れた隙にカウンターにあるタバコを奪う。駐車場には高橋被告人らが自動車やバイクで待機しており、すぐに乗って逃げた。
少年Aは「高橋被告人と松本被告人に指示されてやりました。タバコはみんなで吸って残っていません」と述べ、若者たちの間で役割分担があったことを示した。
●繰り返された窃盗「カゴダッシュ」
窃盗はさらにエスカレートする。
今度は店の商品を買い物カゴに入れて、そのまま持ち去る「カゴダッシュ」だった。
2024年10月28日、相模原市内のスポーツ用品店で、パーカーやバスケットシューズなど7点(9万6000円相当)を盗んだ。
少年Aはこう供述している。
「高橋被告人と松本被告人から欲しいものを指示されて、カゴに入れました。自分がほしいものも入れました」
その後も相模原市や藤沢市、横浜市、厚木市などのブランド品のリユース店で、服やスニーカーなどの「カゴダッシュ」を繰り返し、被害総額は確認されているだけで40万円以上にのぼる。
犯行は計画的だった。
高橋被告人らが店外で逃走用のバイクや自動車を準備し、秘匿性の高いアプリ「シグナル」で少年らに合図を送る。そのタイミングで、少年らがカゴを持って店外に走り、逃走するという手口だ。
検察側が示した証拠では、店の防犯カメラに犯行の様子が記録されていた。危険をおかしてまで、なぜ彼らは「カゴダッシュ」を繰り返したのだろうか。
●バイクで国道を移動しながら4件連続で強盗
検察側の冒頭陳述や少年らの供述によると、高橋被告人と松本被告人は当時、暴力団とのトラブルを抱えていた。2024年11月末までに200万円の示談金を払うよう求められていたという。
しかし、「カゴダッシュ」では思うように金を集めることができず、その後、高橋被告人と松本被告人、少年2人の4人は、バイクで国道16号線を走りながら、一晩で4件の連続強盗事件を起こすことになる。
最初の強盗は、11月18日午前3時46分ごろ、横浜市内の病院敷地内。自転車に乗っていた男性(当時62歳)を殴り、ギフトカードなど5万円相当を奪った。
その後も犯行は続く。
・午前4時35分、横浜市内の路上で、自転車に乗っていた男性(当時65歳)から現金5万5000円を奪った
・午前5時11分、横浜市内の路上を歩いていた男性(当時53歳)の頭をヘルメットで殴り、クレジットカードや現金、パソコンなど合計32万円相当を奪った。
・午前6時2分、町田市内の路上で男性(当時42歳)を殴り、現金2万4000円を奪った。
とくに3件目の被害者は全治半年のケガを負っている。被害者らをヘルメットで殴ったのは、少年Aとみられている。
●「歩いている人をボコして金を取る」
強盗事件に加わっていた少年Aは、犯行前夜の様子をこう供述している。
若者グループは、高橋被告人の交際相手の女性宅に集まっていた。そこへ、後に強盗事件に加わることになる少年Cから電話があったという。
「2人(松本被告人と少年C)は電話で話していましたが、そのあと携帯をスピーカーにして、みんなで話しました。その時、お金を作るために、『おやじ狩り』とか 『強盗』をするという感じの話をしていました。おじいちゃんに危害を与えるイメージがありました。
松本被告人も高橋被告人も『本当にやるの?』と笑っていました。3人は『暴走族や旧車会を見つけて、Aを殴らせて、そのあと出て行っていちゃもんつけてお金を出させる』とも言っていました」
しかし、高橋被告人たちは国道16号を走ったが、暴走族は見つけられず、通行人から金を奪うことになった。3件目の強盗で、被害者を見つけたのは高橋被告人だった。
「松本被告人から『すれ違った時に殴ったらいいんじゃないか』と言われ、ヘルメットをスイングさせて殴りました」
奪った金のうち、少年Aの取り分は1000円だったという。
●「メットでぼこぼこにした。血だらけにした」
高橋被告人の交際相手の女性も、当時の様子を証言した。
「(強盗事件の前日)高橋被告人は『歩いている人をボコして金を取る』と言っていました。『俺は何もしない、Aにやらせる』とも言っていました」
前日は、祭りの屋台を手伝えば1万5000円もらえる予定だったが、高橋被告人は行くのをやめたという。
事件当日の朝に帰宅した高橋被告人は「メットでぼこぼこにした。血だらけにした」と話したという。また、「ニュースになっちゃった」と笑っていたそうだ。
「高橋被告人『数万円しかとれなかった』と言っていて、『普通に働いたほうがよかったんじゃないか』と思いました」「捕まると思っていなかったので、軽い感じで受け止めていました」(女性)
●少年たちにとっては「ケツモチの先輩」
裁判では、少年たちにとって、高橋被告人と松本被告人がどのような存在だったのかも、明らかにされた。
窃盗事件に加わっていた少年Bは「年上の先輩で『ケツモチ』してくれていた」と供述している。ケツモチとは、少年たちがトラブルになったときに間に入り、おさめてくれることだという。
同じく少年Aも「面倒見の良い先輩で、2人を慕ってよくつるんでいました。2人と過ごすのが本当に楽しかった」と話している。
ただし犯行では「俺たちは前科があるからダメだけど、お前は捕まっても少年院に入って1年で出てこられる」と言われ、実行役を担わされていたと主張している。
●質店で窃盗、ウーバーイーツ配達員も襲撃
その後、少年Aが抜けた後も高橋被告人と松本被告人の犯行は続いた。
11月28日に町田市内の質店で、ネックレスやブレスレットなど110万円相当を盗んだ。示談金の支払いを12月までに延期してもらった2人は、今度はウーバーイーツの配達員をターゲットにする計画を立てる。
12月2日、相模原市内でウーバーイーツの配達員を金属バットで襲い、金を奪おうとしたが失敗した。
翌年の2025年2月までに、高橋被告人や松本被告人らは強盗致傷などの容疑で逮捕された。
●弁護側「首謀は松本被告人」
弁護人は事実関係を争わない一方で、次のように主張している。
「被告人は反省しています。松本被告人に流されてしまう性格で、(犯行は)いずれも松本被告人の首謀でおこなわれた。被告人は、被害者への謝罪や賠償もする意志があります。まだ若く22歳であり、前途もあります」
高橋被告人の裁判員裁判は、3月12日に判決が言い渡される予定だ。