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昼職女性を狙い撃ち「ホスト指南書」作成、副店長に有罪判決 「被害者を食い物」にする卑劣な手口が裁判で明らかに
大阪地裁(白熊 / PIXTA)

昼職女性を狙い撃ち「ホスト指南書」作成、副店長に有罪判決 「被害者を食い物」にする卑劣な手口が裁判で明らかに

大阪市内のホストクラブで、部下のホストと共謀し、複数の女性客から計268万円を脅し取ったとして恐喝罪の罪などに問われた被告人(20代男性)について、大阪地裁は5月28日、懲役3年執行猶予5年(求刑:懲役3年6カ月)の有罪判決を言い渡した。

三輪篤志裁判官は判決の言い渡し後「あなたがしてきたのは、被害者を食い物にするようなことで、悪質性が高くて軽視できない。やったことの重みを自覚するようにしてください」と説諭した。

裁判では、被告人が「副店長格」として店に勤務しており、客から効率的に金銭をとれるよう「一撃」という名のマニュアルを作成し、ホストを指導していたことも明らかになった。判決に至るまでの公判から、その卑劣な手口を追った。(裁判ライター・普通)

●「消費者金融で借りられるだけ借りてほしい」

判決前の公判で、身柄拘束されながら出廷した被告人。顔がやや隠れるほどの長い髪だが、管理職として経験値を積んでいるからなのか、はたまた事件への反省からなのか、終始落ち着いた様子で質問に答えていた。

起訴状によると、被告人は、部下のホスト=公判中=と共謀して、女性客2人に対して高額な飲食代を請求。「払うまで帰れないから」「消費者金融で借りられるだけ借りてほしい」などと支払うべき額を明示せず、計268万円の金銭を脅し取った罪に問われた。

また、別の女性客については、性風俗店を紹介して雇用させた職業安定法違反などの罪にも問われた。被告人は、いずれの起訴内容も認めていた。

●ホストクラブの経験がない「昼職」がターゲットに

検察官の冒頭陳述などによると、被告人は大学を中退したあと、2018年ごろから、東京や大阪などでホストとして働き、2021年から今回のホストクラブに勤務していた。

被告人が作成した「一撃」と名付けられたマニュアルには「未収でしばる」「これどうするの?の演技」「伝票の裏書きは絶対」などと書かれており、ホストクラブの経験が皆無、またはほぼない「昼職」の女性がターゲットとされていた。

部下のホストはまず、仕事を隠したうえでマッチングアプリで女性と知り合い、その後、「店のミーティングを忘れていたけど、同伴なら罰金取られないから」などと言って来店させていたという。

そして、従業員間のLINEで「一撃させたい」などのメッセージを送って情報を共有。来店した女性を取り囲んでコール。テキーラ10杯を一気飲みさせるなどして、判断能力を低下させたところで、勝手に追加のシャンパンを頼むなどして高額な会計を請求していた。

伝票には、女性の親の名前や電話番号を書かせて、消費者金融に連れて行った。その後、「支払いは開店時でないとできない」などと来店させて、再び従業員間で情報共有したうえで同様の行為をおこなって、さらに請求額を膨らませていった。

支払いのために性風俗店に勤務させられた女性は、事件当時、20歳だった。性病に罹患し、多大な屈辱と高額な治療費が発生している被害感情なども明らかにされた。

●被告人の母親「金銭の危機感があったと思う」

弁護人からは、女性たちに対する被害弁償の状況が証拠として提出された。また、被害者3人には計370万円を支払っており、うち2人とは示談が締結されたほか、逮捕時に実名報道がされたことで社会的制裁をすでに受けているという主張もあった。

情状証人として、母親が出廷した。事件当時も別居しながら、毎月食事に行くなど定期的に顔を合わせており、被告人と関係性は良好であったという。しかし、ホストとして働くことには反対しており、具体的に何をしていたかなどは聞いていなかったという。

事件のことは逮捕前に被告人からの電話で知った。「自宅前に警察が来てるから、しばらく会えないかも」と言われたという。

弁護人:(犯行に及んだ)原因はなんだと思いますか?
母親:金銭の危機感があったと思います。夫が急死して、奨学金の返済や家の借金のことも知っていたので。

母親が証言する間、被告人はずっと下を向いており、表情はわからなかった。

勾留中(判決前に保釈されている)、被告人が希望する資格取得の本を差し入れたり、今後は同居をして生活を立て直すなど、監督の意向を示した。弁護人からの質問の最後に、被害者とその家族に対する謝罪の言葉も述べた。

●「ホストの世界ではよくあるのでは?」

弁護人からの被告人質問に対しては、小さい声でぽつりぽつりと答えていった。

この中で、スタッフに「一撃」という名のマニュアルを作り、ホスト教育をおこなったことを認めた。内容は被告人自身で考え、店の代表者に教育に使いたいと進言したという。

弁護人:恐喝行為に使われたことについてどう思いますか?
被告人:いけないし、良心も傷んでいました。

弁護人:良心が傷んでいたのに続けていたんですか?
被告人:ホストを始めたころの上司が「心を鬼にしろ」と言う人でした。自分が上になり利益を優先してしまった。

犯行動機として「売上に厳しい上司と出世したい欲」があったと答え、それに巻き込まれる形になった被害者について「恐い思いをさせて申し訳ないと思っている」と詫びた。

一方、恐喝の被害者である2人のことは「よく覚えていない」と答えた。金銭の請求のために免許証を撮影したり、両親の連絡先を聞いたり、風俗店への紹介することについて、当初から認めていた一方、「ホストの世界ではよくあるのではと思っていた」と答えた。

●マニュアルには「証拠は絶対に残さない」とあった

検察からは「一撃」のマニュアルに記載されていた内容について確認があった。弁護士への相談や裁判になるため「証拠は絶対に残さない」と記載していたことなども明らかにされた。

検察官:「翌日に払わせる」というのは?
被告人:払うと言って、払わないケースがあるので。

検察官:被害者は20代前半で、(借入の)限度額は高くないですよね。すぐ借入情報などが出回るからではないですか?
被告人:年収の三分の一程度の借入という知識はあったが、信頼関係があれば入金日までに支払いはされるので。

また、直接指導したホストは10人に満たないと主張したが、グループLINEで「酔わせたい」などと流れると、暗黙の了解があったという。

検察官:「一撃」するとき周りにホストは何人いるんですか?
被告人:多くて3人。

検察官:それでテキーラ一気や、シャンパンコールをする。
被告人:はい。

検察官:シャンパンコールのときはどのように?
被告人:内勤以外はみんな集まってくる。

検察官:何人くらい集まる?
被告人:10〜20人くらい。

被告人は今後、資格取得を目指すというが、執行猶予が切れるまで、その資格は取得できない。その間はアルバイトなどをしながら生活を立て直すという。

検察官は「ちゃんと頑張ってるホストの方もいると思う。組織の上も経験して、今後も手っ取り早く収入を得たいと思わないか不安だ」と指摘していた。

今回の事件で「マニュアル」と聞いて、いわゆる「いただき女子事件」を想起させたが、大阪府警は昨年、大阪ミナミのホストクラブやメンズコンセプトカフェに法令遵守の徹底を促す説明会を開くなど、被害状況は深刻さを増している。

なお、被害者となった女性と「関係性」を持っていた部下のホストの刑事裁判は、5月28日現在も続いており、そちらでは、被害者から当時の追い詰められる様子などが直接証言されている。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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