夏までに一番体重を落とせた人は、他の人から「焼き肉」をおごってもらえる――。こんなルールで、友だちや同僚とダイエット対決したことがある人はいませんか。
本来、ダイエットは自分との戦いなので、孤独なものですが、ゲーム感覚で勝負することで、気軽にはじめられることもあります。
健康維持のために運動をとりいれながら取り組んでほしいところですが、弁護士ドットコムには、ご褒美の食事をかけたダイエット対決は「賭博」にならないのかと心配する相談も寄せられています。
実際、どうなのでしょうか。坂口靖弁護士に聞きました。
●ダイエット対決も「賭博」に該当する可能性は高い
――焼き肉のおごりをかけてダイエット対決した場合、賭博にあたりますか?
刑法では「賭博をした者は、50万円以下の罰金または科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない」と定められています(185条)。
ここでいう賭博とは、「偶然の事情に関して財物を賭け、勝敗を争うこと」を指します。
今回のケースでいえば、「ダイエット対決をする」という点が「偶然の事情に関して」と評価できるか否かが、まず問題となります。
この点、「偶然の事情」とは、判例で「当事者において確実に予見できず、又は自由に支配し得ない状態をいい、主観的に不確実であることをもって足りる」と考えられています。
このような「偶然の事情」についての判断基準からすると、賭けが成立するような「ダイエット対決」に関しても、「当事者において確実に予見でき」ない事情に該当するものと考えられ、「賭博」に該当する可能性は高いと考えられます。
●「賭博罪」は成立しない可能性が高い
――ということは、賭博罪が成立するということでしょうか?
賭博罪が成立するには、さらに「財物」を賭けていることが、必要となります。ここでいう「財物」とは、「有体物または管理可能物に限らず広く財産上の利益であれば足り、債権等を含む」とされています。
刑法にあるように「一時の娯楽に供する物」と評価できるような物を賭けているに過ぎない場合は、賭博罪は成立しません(185条ただし書き)。
今回のケースのように「焼肉をおごる」という場合は、それが「一時の娯楽に供する物」と言えるかどうかによって結論が異なるものと考えられます。
裁判例を参照すると、「一時の娯楽に供する物」とは「関係者が即時娯楽のために費消するような寡少のもの」という判断が示されているものがあります。
また、この判断基準としては、(1)社会的地位(2)職業(3)賭博行為の回数(4)賭けた財物の種類(5)数量(6)価格――などから判断すると考えられているようです。
「焼肉をおごる」というと、詳細な事情は不明ではありますが、その価格が常識的に考えて異常に高額な店であるなど、特段の事情がない限り、「一時の娯楽に供する物」にあたり、賭博罪は成立しないという判断となる可能性が高いと考えられます。
仮に、賭博罪が成立するという判断となっても、同種の前科前歴が多数存在しているなど、特段の事情がない限り、刑事処罰を受けるという可能性は極めて低いのではないかと思います。
●少しでも「お金」賭けたら賭博罪が成立する
――焼き肉のおごりではなく、お金を賭けた場合はどうでしょうか?
これまでの裁判例では、お金を賭ける場合においては、その多少にかかわらず、「一時の娯楽に供する物」ではない、と考えられているようです。
つまり、お金を賭ける以上、その金額の多寡によらずに賭博罪が成立してしまうでしょう。
しかし、1円しか賭けていないような場合、学説などでは、「一時の娯楽の用に消費される程度の少額の金銭であれば、賭博罪は成立しない」と考えるべきともされているものもあり、実際に処罰される可能性は極めて低いと考えられます。