2019年7月の参院選における買収疑惑で、自民党を離党したばかりの河井克行氏(前法務大臣)、河井案里氏の国会議員夫妻が6月18日、東京地検特捜部に逮捕されました。
報道によると、2人は案里氏の当選のため、広島の地元議員や後援会関係者ら約94人(のべ96人)に総額約2570万円の現金を渡した疑いが持たれています。
具体的な人数と金額は、克行氏が91人に計約2400万円。案里氏は、克行氏と共謀し5人に計170万円。期間としては、案里氏の立候補が決まった2019年3月下旬ころから始まったとみられています。
●案里氏、文春インタビューで「勝てる」
一方で週刊文春(6月25日号)には、「私は裁判で勝てます」とする案里氏のインタビューも掲載されています。参院選前にあった統一地方選での陣中見舞いや当選祝いであって、「買収」ではないなどする主張です。
この点について、元東京地検特捜部の中村勉弁護士(中村国際刑事法律事務所代表弁護士)は、次のように説明します。
「名目いかんにかかわらず、この現金が投票とりまとめ等の選挙運動の報酬と評価できるかによる。
現金を受け取った各議員らの供述や関係証拠から交付の趣旨やタイミング、態様などをそれぞれ評価し、選挙運動の報酬と認定できるか検討することになる」(中村弁護士)
もし買収と認められたら、量刑はどのくらいになるのでしょう。
「現金交付額による。感覚的には起訴額が1000万円未満であれば、懲役2年、執行猶予5年程度ではないか」
●報道では「2400万円」、起訴時の金額に注目
克行氏は約2400万円を渡した疑いがあると報道されています。起訴時に金額が大きく変わることはあるんでしょうか。
「自分も所属していたから分かるが、特捜部が動くからには、100%有罪にしなければならないという論理が働く。
現金を渡した趣旨となると、口頭で記録がなかったり、記憶が曖昧だったりするものもあるだろう。100人近くを立証するのは難しいのではないか。
逮捕時には、さまざまな疑惑込みで報道されるが、認定されないものは1件も出したくないので、通常は証拠が確実なものに絞って起訴する」(中村弁護士)
特捜部が逮捕に踏み切った以上、起訴は確実視されています。どのくらいの金額で起訴するかが注目ポイントといえそうです。
●辞職なしなら年単位で「国会議員」の可能性も
今回は、自民党から運動資金として案里氏側に通常の10倍となる1億5000万円が提供されたことも問題視されています。広島県選管が認めた参院選費用の上限は4726万9500円ですが…。
「上限規制違反は問題となりうるが(公選法194条1項、同法施行令127条1項関係)、河井夫妻に対する捜査に関連した裏付け捜査(カネの流れ)として捜査するのではないか」
自民党の資金提供自体は立件対象にはならないかもしれませんが、通常1500万円といわれる資金の10倍の使途については説明・解明が求められます。
自民党ホームページよりキャプチャ・合成(離党届提出後の2020年6月17日午後2時)。6月22日現在では削除されている
なお、逮捕されたからといって、国会議員の資格が失われるわけではありません。失職するのは、執行猶予の付かない禁固以上の刑が確定した場合などです。
ただし現在、ウグイス嬢に違法な報酬を支払ったとして、両氏の秘書の裁判が進んでいます。案里氏の秘書にはすでに広島地裁で連座制の対象である懲役刑判決も出ています。
「連座制が適用され、議員資格を失うのは、秘書の事件が確定してから。そのあと、検察官が行政訴訟を提起し、その行政訴訟が確定してようやく当選無効になる。
秘書またはこれから予定される行政訴訟の上訴の状況によっては、1年以上かかるのではないか」(中村弁護士)
議員辞職しないのであれば、しばらく国会議員のままということもありえるようです。