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「人骨」入りのカバンを放置して逮捕ーー「遺骨」を持ち歩いたらダメなのか?
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「人骨」入りのカバンを放置して逮捕ーー「遺骨」を持ち歩いたらダメなのか?

古物商店の店先に置かれていたカバン。出てきたのは「人骨」だった――。広島県警呉署は5月中旬、人骨の入ったカバンを店先に放置したとして、呉市内に住む無職の男(68)を逮捕した。

報道によれば、人骨入りのカバンが放置されたのは、昨年11月。カバンの中には腕や足のような長い骨数本と、砕かれた骨が入っていたという。呉署は、防犯カメラなどから男を特定。いっぽう、男は「よく覚えていない」と否認している。

今回、逮捕容疑は「遺骨遺棄」と「業務妨害」だった。骨を放置するのは確かに気持ちの良いものではないが、いったい、どの点が法に触れたのだろうか。平賀睦夫弁護士に話をきいた。

●葬儀目的以外で人骨を持ち歩くのはダメ

「そもそも、この手提げカバンは、男の所有物だったのか、手提げカバンに遺骨がどんな経緯で入ったのか、そして、男はそれが人骨であることを知っていたのか――。それぞれのケースで答えは変わってきます」

まず、男が「カバンの持ち主」だった場合について、考えてみたい。

「もし、男がカバンの持ち主だった場合、中身については把握していると考えるのが自然です。つまり、中身が人骨と認識したうえで、運んだと考えられますね。

刑法190条は『死体、遺骨、遺髪または棺に収めてある物を損壊し、遺棄し、または領得した者は、3年以下の懲役に処する』と定めています。遺骨を古物商店の出入口に放置したことは、『遺骨遺棄罪』に該当します」

男は、さらに「業務妨害」の疑いもかけられている。

「人骨が入ったカバンが店の前にあれば、お客は驚いて、店に近づかない恐れがあります。店舗の入口に遺骨を放置する行為は、『人の意思を制圧し、あるいは、混乱させる行為』と解されますから、古物商店への『業務妨害行為』に該当します」

では、男がカバンをそのまま持ち歩くか、単に自宅で保管していた場合はどうなるだろう。

「死体や遺骨に関する刑法の定めは、死者に対する社会風俗的・宗教的な感情を守ろうとするものです。葬祭の義務のない人が、持ち歩いたり自宅で保管していた場合でも、『遺骨領得罪』が成立します。遺族であったとしても習俗上の埋葬と認められない方法で遺骨を遺棄すれば、『遺骨遺棄罪』に該当します。

ちなみに、もし、この男が、お墓を掘り起こして遺骨を取り出し、古物商店の店舗前に放置したのであれば、刑法191条『墳墓発掘遺骨遺棄罪』になり、『3月以上5年以下の懲役』が科せられることになります」

「人」の骨はダメだとしても、「動物」ならどうか。

「『動物の死体』は、刑法上の死体損壊罪などには該当しません。しかし、廃棄物処理法上の『廃棄物』には、『動物の死体』も含まれています。生活環境の保全および公衆衛生の向上のため、適正に処理することが求められます。

動物の死骸を嫌がらせ目的で遺棄する行為は、その態様によっては、さきほどの威力業務妨害罪に該当することもありますね。近時、『遺骨』をアクセサリーにするビジネスが人気を呼んでいるといわれていますが、いずれにしても、生命あるものの『死』に対しては、崇敬の誠を捧げたいものです」

平賀弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

平賀 睦夫
平賀 睦夫(ひらが むつお)弁護士 平賀睦夫法律事務所
東京弁護士会所属。日弁連・人権擁護委員会、同・懲戒委員会各委員、最高裁判所司法研修所・刑事弁護教官等歴任。現在、(公財)日弁連交通事故相談センター評議員、(一財)自賠責保険・共済紛争処理機構監事、日本交通法学会理事等

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