所持品検査に違法性があったから、抵抗したのは適法――。公務執行妨害などの罪に問われたイラン国籍の男性の刑事裁判で、大阪地裁の長井秀典裁判長は3月上旬、無罪判決(求刑:懲役1年6月)を言い渡した。
報道によると、男性は昨年6月下旬、大阪市浪速区の路上で大阪府警西成署員から職務質問を受けた。その際、駐車中の車内の捜索に承諾したが、署員が車内にあったカバンの中まで調べようとすると抵抗。署員の腕にかみつくなどしたという。
男性は公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕された。その後、自宅や車から覚せい剤や大麻などが押収され、覚せい剤取締法違反(所持)などの罪にも問われた。
しかし、長井裁判長は「警官に抵抗するためにかみついており、正当防衛にあたる」として、公務執行妨害について無罪を言い渡した。また、覚せい剤取締法違反などについても無罪とした。なぜ、このような判決になったのだろうか。刑事事件にくわしい岩井羊一弁護士に聞いた。
●人に意思に反する『所持品検査』は許されない
「犯罪の捜査のためとはいえ、人の意思に反してカバンの中を調べるような『所持品検査』は、法律上、許されていません」
岩井弁護士はこう切り出した。どんな理由があるのだろうか。
「個人の『プライバシー保護』の観点から、原則として、裁判官の令状がある場合にしか、人の意思に反する捜査はしてはいけないことになっています。
違法な手続きで得た証拠による立証を許せば、捜査機関が手続きを守らないことに歯止めがなくなります。私たち市民が、捜査機関の違法な捜査でプライバシーを侵害される危険にさらされることになりますし、捜査機関への信頼もなくなるでしょう」
●所持品検査は拒否できる
そもそも、所持品検査は拒否できるのだろうか。
「警察官による所持品検査は、拒否することができます。もし、強い拒否があったにもかかわらず、捜査機関が所持品検査をおこなった場合、裁判所は無罪にしなければなりません」
意思に反する所持品検査が行われた場合、どんなときでも、無罪になるのだろうか。
「必ずしもそうではありません。たとえば、警察官がホテルの客室に赴いて、宿泊客に対して職務質問を行ったところ、不可解なことを口走り、手には注射器を握っていたなどの事情により、被告人に対する覚せい剤事犯(使用・所持)の嫌疑が飛躍的に高まったことから、テーブルにあった財布の中身を調べ、ファスナーの開いていた小銭入れ部分から覚せい剤を発見したケースがありました。
裁判では、この覚せい剤の証拠能力が争われましたが、証拠にすることについては適法だとされました」
今回のケースは、どうして無罪になったのだろうか。
「報道によると、判決では、『薬物使用を疑わせる言動もなかった』と指摘されているようですから、原則通り、所持品検査は違法という判断に至ったのでしょう」
岩井弁護士はこのように述べていた。