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中森明菜さん「隠し撮り写真」掲載の出版社敗訴、芸能人プライバシー侵害の基準は?
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中森明菜さん「隠し撮り写真」掲載の出版社敗訴、芸能人プライバシー侵害の基準は?

歌手の中森明菜さんが、自宅にいる姿を盗撮されてプライバシー侵害を受けたとして、写真を掲載した週刊誌を発行した小学館などに損害賠償をもとめた訴訟の判決が7月下旬、東京地裁であった。水野有子裁判長は小学館側に550万円の支払いを命じた。

写真が掲載されたのは、2013年11月発売の週刊誌「女性セブン」。報道によると、掲載された写真は、小学館から委託を受けたフリーカメラマンが、当時自宅療養中だった中森さんの自宅近くにあるアパートの廊下から、中森さん本人を撮影した。中森さん側は昨年、提訴していた。

小学館側は、中森さんが芸能人であることや、原告の芸能活動復帰に対する社会的関心が高いことを主張していた。だが、判決は「違法性を軽減する理由にはならない」と判断した。(1)撮影方法が悪質な対応であること、(2)編集長が過去の判例に照らして違法であることを認識しながら掲載に踏み切ったなどと指摘した。

今回のように、週刊誌などが、芸能人などのプライベートを報じることがある。どのような場合に、そうした報道が「違法」とされるのだろうか。過去の判例では、どうなっているのだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。

●芸能人も「他人から干渉されない私生活上の利益」を有している

「芸能人など、著名人のプライベートに関する報道は、プライバシー権の侵害として、違法になることがあります。

裁判例としては、有名小説家の再婚相手といわれている女性の自宅台所で、夕食準備中の姿を撮影・掲載したケース(東京高裁平成2年7月24日判決)や、新聞社および球団の代表者の自宅でのガウン姿を撮影・掲載したケース(東京地裁平成17年10月27日判決)などで、違法と評価されています」

中森さんのケースはどうだったのだろうか。

「まだ判決文が公開されていないようなので確認できていませんが、報道によると、週刊誌の編集長はこれらの裁判例を認識していたのではないかと思われます。

問題になるプライバシー権とは、『私生活をみだりに公開されない権利』のことです。プライバシー権は幸福追求権(憲法13条)が主な根拠とされています。

著名人といえども、他人から干渉されない私生活上の利益を有しています(東京地裁・昭和49年7月15日判決)ので、芸能人というだけでプライバシーがないことにはなりません」

●「表現の自由」との調整がある

どういう場合、プライバシー権侵害となるのだろうか。

「その要件については、三島由紀夫『宴のあと』事件の判決(東京地裁・昭和39年9月28日)で示されています。実質的な要件は次の3つです。

(1)私生活上の事実または私生活上の事実と受け取られるおそれのあること

(2)一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担・不安を覚えるであろうと認められること

(3)一般の人々に未だ知られていないこと

これらの要件を満たしたとしても、報道側の『表現の自由』(憲法21条1項)との調整が必要になってきます。

『宴のあと』事件では、「他人の私生活を公開することに法律上正当とみとめられる理由」があれば、違法性を欠いて不法行為は成立しないとされています。

つまり、公開される人の社会的地位に照らして、その私生活の一部が公の正当な関心の対象となる場合、その公開は違法でないということです。とくに公務に就いている人やその候補者の場合、私生活上のことも広く公共の利害に関するものと考えられます。

また、芸能人などの場合、報道された内容によってはプライバシー権を放棄していたと考えられる場合もあります。その場合、プライバシー権侵害とは評価されません」

●「見込み利益を下回る金額でしか慰謝料が算定されない」

つまり、プライバシー権侵害があったかどうかは、以上の観点から、個別の事案で詳細に検討することになるということだ。

「プライバシー権侵害が認められると、精神的苦痛に対する慰謝料などの賠償責任が認められます。

もし仮に、他人のプライバシー権を侵害した賠償責任を上回る利益が見込まれるのであれば、報道機関の中に違法と認識しつつも、撮影・掲載を強行するところもあるでしょう。

強行されるのは、侵害者の見込み利益を下回る金額でしか慰謝料が算定されないからです。そのような裁判所の算定が、そもそもおかしいのではないかと思いますが・・・」

林弁護士はこのように指摘していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

林 朋寛
林 朋寛(はやし ともひろ)弁護士 北海道コンテンツ法律事務所
北海道江別市出身。札幌南高、大阪大学卒。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。平成17年10月弁護士登録(東京弁護士会)。沖縄弁護士会を経て、平成28年から札幌弁護士会所属。 居住地(選挙区)で国民の一票の価値が異なる問題についての選挙無効訴訟に関与している。

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