家本 誠 弁護士
裁判手続きについて 加害者側の代理人(実質加害者が契約している保険会社から依頼を受けた弁護士になります)からは、御依頼者の現状の能力を考えれば、9級10号の労働能力の喪失(35パーセントの喪失率になります)までを認めるのは相当ではなく、12級の14パーセント程度の労働能力の喪失と考えるのが相当であるという意見が出されました。 また事故当時の御依頼者の年収が、申告書からすると極めて低い金額で記載されていることから、加害者側から、この低い年収を基準にして、賠償額を計算すべきであるという意見も出されました。 裁判上の大きな争点は、①御依頼者の後遺症の程度をどのように考えるべきか、②賠償額の計算の基礎となる御依頼者の年収をどのように考えるべきかという、この2点に絞られました。 まず前記①の争点については、実は私自身も、御依頼者を以前から知っていたこともあり、事故後の相談や面談では、以前と変わらない様子であったので、後遺症が具体的に仕事や日常生活で何か影響を及ぼすことがあるのかと思ってしまうこともありました。また以前と同様に工業デザインの仕事も支障なく行っていると御依頼者がお話をされていましたので、後遺症の程度について、こちらの主張を裁判所が認めてくれるのか、不安を感じたのも事実でした。 しかしご本人ではなく、御依頼者の妻から日常生活の様子を聞いたところ、やはり高次機能障がいの影響が出ていることが十分に理解できました。一見すると、御依頼者の様子は前と変わらないように思えたのですが、御依頼者の妻からのお話では、「少し前に使用していた物を何処に置いたのか忘れてしまう。」、「依頼を受けた仕事をすっかりと忘れてしまい、納期が過ぎてから指摘されて慌てて仕事に取り掛かることがある。」、「仕事に必要な資料を選別することが困難なことがある。」、「引っ越しをした自宅近所の道が全く覚えられない。」、「自分が気に入らないことがあると、すごく短気になり、癇癪を起すことがある。」、「また工業デザインの仕事についても、デザインに費やす時間が以前に比べて非常に短くなり、根気がなくなった。」などの事故の前後において、本人の性格や仕事に対する取組み等に大きな変化が生じていることが、御依頼者の妻の話から良く理解ができました。 実際にはもっと多くの事故後の変化について、事情を詳しく聞き、それを裁判所に書面で主張をしていきました。 また前記②の争点については、所得の申告をする場合、代表者である御依頼者の年収が、極めて低額に申告されることは良くあることです。例えば、自宅で実際には使用されるものも、会社の経費等として処理をされることも珍しくありません。これらの経費処理により、申告書の形式上は、御依頼者の収入が極めて低い内容になっていました。 しかしこの点についても、決算書の内容を明らかにすることや、またデザインの仕事が今後取引先との関係で、拡大し、売り上げが伸びる可能性が極めて高いことを、取引先の関係者の協力を得て、それを書面化することで、裁判所に証拠として提出をしていきました。今後の売上の拡大については、取引際の御協力がなければ、その点を証明することは極めて困難であったと思います。過去の売上の推移については、納税の資料などで明らかにすることは可能ですが、今後、売り上げが伸びていくという将来の展望については、それを裏付ける資料を証拠として裁判所に提出することは、御依頼者の作成する資料では難しく、第三者である取引先のご協力が不可欠であるからです。
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