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小中時代のいじめ経験、きっかけで弁護士に…証拠がなくても「諦める必要はない」
高橋知典弁護士

小中時代のいじめ経験、きっかけで弁護士に…証拠がなくても「諦める必要はない」

担当する事件の9割がいじめや学校事故、退学、体罰など学校に関するものだという高橋知典弁護士。自身も小中学校時代にいじめられた経験があり、「何か子どものためにできることがしたい」という思いで弁護士を目指すようになりました。

どうしたらいじめは解決するのでしょうか。そう問いかけると、ポイントは「大人が本気の姿勢を見せるかどうか」だと話します。そして「証拠がなくても決して諦める必要はない。必ずやりようがあります」とも。

子どもがいじめにあっていると気づいたら、親はどのように対応するのがベストなのでしょうか。

●逃げ道がたくさんあったから、自分を嫌いにならないで済んだ

ーー自身も小中学校時代にいじめられた経験があると聞きました

小学4年から中学1年の前期くらいまで、いじめられていました。うちの家はあまりお金がなかったんです。それで、同じような服を着たり、親戚からもらったお下がりを着たりしていました。

お下がりでもらったジーンズのサイズが大きかったので、親がゴムを入れてくれた物を修学旅行に履いて行きました。それを「こいつジーパンにゴム入ってるぞ」と4〜5人に言われて。恥ずかしくてやめてほしいと思っていたのですが、怒ると「ダサい」、泣くと「こいつまじ弱い」と言われる。反抗もできず、ただ耐えていました。

廊下で大外刈りをされたり、ほうきで叩かれたりもしました。家庭も順風満帆な訳ではなく、自分のことで親に余計な心配もかけたくなかったので、「自分が悪いのだろうか」と思いながらお風呂で一人泣いていました。

ーーどのようなきっかけで、そのいじめは止まったのですか

中学1年の終わり頃に、身長がぐっと伸びて一気に170センチ台になったんです。さらに声も低くなり、体格が良くなったのもあって「やめて」と少し凄むと怖がられるようになりました。また制服になったことで、服装で比較されることもなくなり、いじめられる要素が消えたというのも大きかったです。

ーーいじめを受けたことによる心の傷で、その後も立ち直れない子も多くいます。高橋弁護士はいじめが止まってからは、どのような日々を過ごしたのでしょうか

私が受けたいじめは、クラス単位が中心でした。なので、他のクラスには私がいじめられていることすら知らない友達もいました。また習い事をしていたので、他の学校の友達もいました。いじめっ子だけが自分の世界ではなかったんです。

「お前面白くない」「ノリがわかってない」。こんな理由にもならないような理由でいじめられていたのですが、ある時、お笑いコンビ・さまぁ〜ずの三村マサカズさんが人を傷つけない形で優しく突っ込み、笑いを取っているのを見たんです。弱いものいじめだけが、笑いじゃない。誰かをバカにしなくても、面白いことはある。いじめっ子の「面白い」の尺度が絶対ではないと気づきました。

最後まで自分が嫌いにならないで済んだのは、逃げ道がたくさんあったからだと今振り返って思います。

●いじめに気づいたら、まずは学校に相談を

ーーいじめに関して、普段どのような相談を受けていますか

弁護士に相談というと「すぐに裁判することになる」と思われる方も多いのですが、私が担当する事案は多くが裁判の前段階の環境調整です。弁護士は「交渉の専門家」だと捉えてもらう方が分かりやすいかもしれません。

「悪口を言われている」「仲間外れにされている」「暴力や物を隠されている」ーー。これらを学校に相談したが解決しなかったと相談に来られることもあれば、まずは本来どうすればいいのかと最初に対処法を尋ねに来られる親御さんもいます。

被害児童と加害児童を同じ部屋に呼び出して聞き出すなど、学校側の事実確認の方法が間違っていることや、学校側の危機感が欠けていることもありますから、必要に応じて学校側へのフォローを行っています。

ーーもし自分の子どもがいじめられているかもと思ったら、学校にはどのタイミングで相談するべきなのでしょうか

学校の先生は、いじめに気づいていても「そこまでではない」と思っていたり、そもそもいじめの存在に気づいていなかったりするケースがあります。ですので、いじめの存在に気づいた時点で、「不安なことがあります」と相談したらいいと思います。先生は多忙で、様々なことに気を配っています。相談した時点で、優先順位が先生の中で高まり、解決に向かうことも多々あります。

先生は教育のプロではありますが、いじめ対応や保護者対応のプロではありません。もし最初に相談した先生があまり対応してくれなければ、何名かの先生に相談する必要があると思います。

一方で、子どもの話を全て信じてしまうのも危険です。子どもは何よりも親に味方でいてほしいと思っていますから、自分の非を言わないこともあります。まずは「もしかしたら」という気持ちで学校に話してみることが大切です。

また、学校側に一言伝えた途端、全員を翌日に呼び出して叱りつけ、いじめた側が「あいつチクった」とよりいじめが深刻になる事案もあります。まずは子どもに何をしてほしいか、何をして欲しくないかを聞き、最初の行動をどう取るかは子どもの意思を重視してあげてほしいと思います。

●証拠がなくても諦める必要はない

ーー職場などでのハラスメント問題では、戦うためには具体的な物的証拠が重要になりますが、学校内のいじめはどのようにして事実確認をしていくのでしょうか

職場のハラスメント問題は利害関係があり隠蔽なども起こりますが、子どもたちは学校におぜん立てをすることはありません。むしろ、大人が全力でいじめに向かう姿勢を見せると、アンケートなどで見ていたことを素直に伝える子どもも多く見られます。

ですので、いじめの証拠がないからと諦める必要は全くありません。準備や工夫をすれば、いじめた側の子どもも「確かにそういったけど、それはあいつが悪い」とやった行為について素直に認めるケースは多いです。どこまで大人が本気になるか、そしてその姿勢を子どもに見せるかが鍵になってくると思います。

ーー今、いじめられている子に伝えたいことはありますか

いじめられていることは、悪いことではありません。いじめられている子は、いじめっ子から日々「お前が悪い」と言葉を浴びせられています。

自分の心の状態が分からず、大人に「大丈夫」と答える子が多いため、「いじめを受けたことで、心に大きな傷を負っている状態かもしれない」「血は見えますが、心の傷は外から見えないから、もしかしたら傷ついているかもしれないよ」と声をかけることがあります。心が疲れていても、全くおかしくありません。

また、いじめられているあなたも悪くありません。人と違っていても、あなたが悪いことはない。そう伝えたいと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高橋 知典
高橋 知典(たかはし とものり)弁護士 レイ法律事務所
第二東京弁護士会所属。学校・子どものトラブルについて多くの相談、解決実績を有する。TBS『グッとラック!』元レギュラーコメンテーター。教育シンポジウム、テレビ・ラジオ等の出演。Yahoo!公式コメンテーター。

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