退職代行業者「モームリ」事件では、弁護士法違反という罪が近年で最も大きく世に問われた。弁護士法人の代表弁護士2人が逮捕され、法曹界も揺れた。一審の有罪判決が確定した前社長の弁護人を務めたのは、刑事弁護のプロである小松圭介弁護士。事件を振り返り、弁護士が陥る非弁提携のリスクについて語った。
●「なぜ非弁提携に陥ったのか不思議」
15年以上のキャリアがある小松氏でも、弁護士法違反事件を扱うのは初めてだった。裁判にまでなった事例は、判例データベースに搭載されている事件も数十件ほどと判例も多くない。2026年2月の逮捕前には、警察による大規模な捜索がおこなわれるなど耳目を集めたが、立件されたのは約1年8カ月で退職希望者174人分の周旋だった。
小松氏は「率直に言って不思議です。労働者側では請求額が大きくないため、弁護士がもらえる着手金や報酬も高くならないことが多く、危ない橋を渡る理由がない。紹介を受けた事件の件数や売り上げの中でどれぐらいを占めていたかにもよりますが、一体どんな事情があったのか」と首を傾げる。
被告人の1人・梶田潤弁護士(一審で懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決、控訴中)はモームリを運営するアルバトロスの顧問を務めていた。公判で「前社長が好青年で応援したかった」という趣旨の供述をしたが、弁護士バッジを賭けるほどの理由になり得るのか。
懲戒請求された同業者の代理人を複数担当したことのある小松氏によると、たいていは資金繰りなどの金銭的な背景がある場合が少なくないという。
前社長の妻の執行役員には弁護人として久保有希子弁護士が就き、最終弁論で裁判長に対し「法律家が関わってしまった事件について、量刑を慎重に判断してほしい」と述べた。小松氏同様、自身と同じ職業の者が違法行為をおこなったことへの諦観や戸惑いがにじんだ。
●弁護士法「“紹介料”の線引きは難しい」
この事件では、退職代行の事業自体が非弁行為とされたわけではない。前社長らの公訴事実は、顧客を弁護士に有償で紹介したことによる周旋に関する罪だった。梶田氏と佐藤秀樹弁護士は、非弁提携の罪に問われた。
退職代行ビジネスが隆盛となり、最大手のモームリを事件化することによって“一罰百戒”する意図があったのではとみる向きもあるが、小松氏は「警察や検察の意図は不明。ただ、紹介料の問題が顕在化したから触らざるを得なかったのでは」と語る。
弁護士ドットコムタイムズvol.76「わかりやすい非弁と非弁提携」深澤諭史弁護士連載より(https://www.bengo4.com/times/articles/347690252/)
「弁護士法違反事件の大多数は非弁行為そのもので、周旋での立件は珍しいと思います。なぜ紹介料の授受が禁止されているのかを丁寧に検討することが必要です」
たとえば弁護士特約では、保険会社が顧客から費用を受け取った上で提携する弁護士につなぐことは実質的な紹介ではあるものの周旋には当たらないとされている。同じ法律事務所で共同受任して、まったく業務をしていないのに報酬を得るのは、実質的には紹介料を受け取ったことにならないか。
「不動産の任意売却の時にも、不動産会社から紹介料を受け取る弁護士もいる。 紹介料についてはセーフ・アウトの線引きが難しい。弁護士会が検討して、指針を示していかなければならないと思います」
●「依頼者の不利益にならないことが第一」
論告求刑公判で検察側が強調したのは、非弁提携が禁じられる法の趣旨だ。
「紹介料が弁護士費用に転嫁され依頼者の負担が増えることを防ぐ。弁護士が依頼者の利益を軽視し、紹介業者の利益のために業務をおこなうことを防ぐ。弁護士の公正・独立を守ることになり、ひいては弁護士の信頼を維持することにつながる」
モームリ事件では、弁護士自らが前社長らに「紹介料とは別名目なら問題ない」と説明し、労働組合への賛助金やアフィリエイト広告業務委託料などと仮装したとされる。どんな名目であっても実質的な紹介の対価であれば、弁護士法違反となる。紹介料の自由化など根本的な改正論議は進んでいない。被告人となった弁護士2人は有罪が確定すれば資格剥奪となり、その代償は大きい。
小松氏は、こう締めくくった。
「私たちは依頼者ファーストなので、依頼者の不利益になる可能性がある行動は取ってはいけない。依頼者から見て内訳が分からなくても、価格に転嫁して紹介料を払わせることになっているなら、弁護士法違反にあたる可能性があります。少なくとも、今は紹介料の授受は立件される可能性が高い。この件に限らず、私たちの目の前には常にぽっかり穴が空いていると考えて、穴に落ちないように注意しなければいけません。そのために弁護士法や弁護士職務基本規程、弁護士倫理を学び続けなければいけないのです」