著作権保護期間の情勢微妙に… 福井弁護士「欧米追随でなく、正解は自ら考えるべき」

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2017年11月06日 10時05分
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アメリカが離脱した環太平洋経済連携協定(TPP協定)の話し合いが大詰めを迎えている。報道によると、千葉県浦安市で11月1日まで開かれていた首席交渉官会合では、知的財産分野で10項目前後について効力を凍結する方向で一致するなど、議論が進展しているという。

朝日新聞は11月1日夜、離脱するまで、アメリカ側が強く要求してきた著作権保護期間を「70年」とする規定は凍結する方向で進んでいると速報した。ツイッターなどでは、ある種の「祝賀ムード」が広がり、一時は「著作権保護期間」がトレンド入りした。もし実現していれば、日本の著作権保護期間「50年」が20年も延長されることになるはずだったからだ。

ところが、その直後、朝日新聞は同じデジタル版の記事内容を「凍結を議論している」と、後退する内容に書き換えた。「政府のクレームか?」などとネット上では疑問が拡大。たしかに、日本政府はTPPの凍結項目をできるだけ減らすよう主張してきた経緯がある。

TPPの著作権規定に警鐘を鳴らしてきた漫画家や弁護士らでつくる団体「thinkTPPIP」は、「それでは米国の参加を促す交渉材料もなくなる」などの声を紹介し情報開示を求める声明(http://thinktppip.jp/?p=845)を公開した。

著作権保護期間の延長については、JASRAC(日本音楽著作権協会)など、一部権利者団体が強く求める一方で、国内で批判の声も根強い。もし仮に、著作権の「死後70年」延長が凍結されず、実施される場合、どのような影響があるのだろうか。11月8日からの首脳会合で妥結も予想される中、この問題について発信しつづけてきた福井健策弁護士に聞いた。

●「欧米でも、超長期の権利保護は情報社会の現実にそぐわないとして批判が強い」

――いったい何が起こっているのか?

もともと著作権の保護期間の大幅延長には異論が強く、日本では一度見送りが決まった経緯があります。しかし、古い作品の輸出で稼ぐアメリカの強い要求で、TPPには導入されました。

同じ年、国会はあえて前倒しで「死後70年」へと国内法の改正をおこないます。すでに、当の米国のトランプ次期大統領(当時)はTPP離脱を宣言していましたから改正は不可解でしたが、延長を求めるJASRACなどは歓迎しました。

改正法の施行は「TPP発効後」とされたため、アメリカを除くTPP発効が浮上したとき、さすがに著作権条項は凍結されると期待されていました。しかし、「加盟国では凍結論が優勢なものの日本政府は後ろ向き」との情報もあり、情勢は相当微妙なようです。

――著作権が死後70年に延長されることで、どんなデメリットが危惧されるのか?

まず、日本は古いコンテンツについては輸入大国で、著作権使用料の国際収支は昨年、史上最高の8600億円以上の赤字を記録しました。

今年は世界で5000億円のキャラクター収入を稼ぐと言われる「クマのプーさん」が著作権切れしました(http://www.kottolaw.com/column/001435.html)。しかし、保護期間を延ばせば当分著作権切れは起きず、高額な民間の負担が20年分増えることになります。

――ほかに危惧されることはなにか?

それ以上に心配なのは、死蔵作品の増加です。著作権は作者の死後相続されますが、長期化するほど権利者は見つかりにくくなります。特に、最終的に権利者が見つからない「孤児著作物」は激増するとされます。

その結果、市場にはすでにないのに「青空文庫」のようなデジタルアーカイブでも公開できず、利活用もできない、死蔵作品が増えることが心配されています。

――日本がすすむべき方向は?

延長論の背景には、常に欧米並みを「世界標準」と考える発想を感じます。しかし、欧米でも、超長期の権利保護は情報社会の現実にそぐわないとして批判が強く、すでに時代遅れです。今や著作権は万人のための万人のルールですから、欧米の追随でなく、日本の正解は、みずから考えることが大事ではないでしょうか。

(弁護士ドットコムニュース)

取材協力弁護士

福井 健策(ふくい・けんさく)弁護士

弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授。内閣府知財本部委員ほか。「18歳の著作権入門」(ちくま新書)、「誰が『知』を独占するのか」(集英社新書)、「ネットの自由vs.著作権」(光文社新書)など知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。Twitter:@fukuikensaku

事務所名:骨董通り法律事務所

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