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新聞記事が真実でなくても「違法」ではない? 「名誉毀損」はどんなときに成立するか
新聞報道と名誉毀損の関係は、どうなっているのだろうか?

新聞記事が真実でなくても「違法」ではない? 「名誉毀損」はどんなときに成立するか

傷害事件の裁判で「無罪」となった男性が、逮捕時の報道で名誉を傷つけられたとして、朝日新聞などを訴えた。しかし最高裁は昨年12月、男性側の上告を退ける決定をくだした。これにより、男性の請求を棄却した2審判決が確定した。

報道によると、問題となったのは、男性が傷害容疑で逮捕されたことを報じた2008年12月の記事だ。その記事では、大阪府警への取材をもとに、男性について「事件の現場で撮影された防犯カメラに映っていた男と似ており」と表現していた。ところが、現場に防犯ビデオはなく、結局、男性は無罪となったのだ。

1審の大阪地裁は、「真実ではない記事を掲載した」として朝日新聞の過失を認め、22万円の支払いを命じた。しかし、2審の大阪高裁は「防犯ビデオに関する部分は補足的。真実でない点が含まれていても、記事に違法性はない」と判断し、男性の訴えを退けた。

新聞の役割は事実を伝えることのはずだが、記事の内容が「真実」でなくても「違法」ではない、というのはなぜなのだろうか。新聞報道と名誉毀損の関係は、いったいどうなっているのだろうか。尾崎博彦弁護士に聞いた。

●名誉毀損が成立する条件とは?

「まず、名誉毀損とは『公然と事実を摘示して、人の名誉を毀損』することです。

このような行為は『不法行為』として損害賠償の対象となります。

しかしその行為が、(1)公共の利害に関する事実に係り、(2)もっぱら公益を図る目的に出た場合で、(3)摘示した事実が真実であると証明されたときは、不法行為は成立しないとされています」

つまり、たとえ名誉毀損にあたるような表現でも、(1)~(3)の条件が満たされれば、不法行為とはならず、損害賠償の対象にもならないということだ。

裁判では、どんな点が論点となったのだろうか?

「今回の場合、報道された内容は、裁判前の犯罪行為に関する報道であり、このことは(1)『公共の利害に関する』と考えられます。

また、記事の内容および表現に照らすと、『もっぱら公共の利益を図る目的』だったと判断されています」

(3)の事実の証明については、どうだろうか? 記事内容には、間違いも含まれていたようだが……。

●事実の「主要な部分」が真実であればOK

「本件記事で問題となったのは、『真実であるとされた事実』の内容ということになりますが、摘示された事実の『主要な部分』が真実であると認められれば足りる、とするのが最高裁の判例です。

そして『主要な部分』か否かの判断ですが、本件の高裁は、記事の内容や見出しの内容、レイアウト等を総合的に判断して、『一般読者が記事を読んだ際に通常受けると考えられる印象を基準に判断』すべき、といっております。

本件で問題となった記事については、全体から見て、男性が本件事件の被疑者として逮捕され、大阪府警が過去の類似事件3件について関連を調べる方針である、という点が『主要な部分』であるとされました。防犯ビデオに関する部分などは『主要な部分に該当しない』とされたのです」

裁判所は今回、こうした基準にもとづいて判断を下したようだ。ただこの基準を他のニュース記事にあてはめて考えるとすると、何が「主要」なのかも含め、実際にはケースバイケースの難しい判断となりそうだ。

尾崎弁護士も次のような指摘を加えていた。

「本件の結論はともかく、『防犯ビデオに映っていた』旨の事実の摘示が、常に『対象となる事実の主要な部分』とならないのかといえば、やや疑問に感じます。

たとえば、もし『防犯ビデオが決め手!』等という表現の見出しが本件記事に示されていた場合ならば、明らかに真実に反することを重要視するかのような印象を与えかねませんので、高裁の基準でも名誉毀損が成立したかもしれません」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

尾崎 博彦
尾崎 博彦(おざき ひろひこ)弁護士 尾崎法律事務所
大阪弁護士会消費者保護委員会 委員、同高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 委員、同民法改正問題特別委員会 委員

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