大上 岳彦 弁護士
はじめに相談を聞いて、まずは、他に財産がないかの調査をすることとしました。幸いなことに依頼者が、生前お母様が口座を持っていた銀行を1つ知っていたので、そこに問い合わせると、お母様が亡くなる直前に解約されており、数年前から毎月数十万円の出金があることが判明しました。他にも、めぼしい金融機関や生命保険会社に対して調査依頼をしましたが、空振りに終わりました。また、お母様が亡くなるまでおられた施設に問い合わせて、施設費用の明細を求めるとともに、介護記録の開示を依頼しました。すると、どう考えてもお母様の口座から月々出金されていた金銭の方が多額であり、Aさんがお母様の預金を勝手に引き出していたのではないかという疑惑が持ち上がりました。その後この手の問題で高いハードルとなるのは、「立証」です。つまり、どの程度の証拠を用意できるかという問題です。Aさんに対して、お母様の預金を返すように請求するために(または損害賠償請求をするために)必要なのは、「Aさんが預金を使い込んだこと(隠し持っていること)」を立証することです。当然Aさんが素直に認めることはありませんので、こちらが証拠を用意しなければなりません。しかし、たとえば記録が古くて残っていなかったり、個人情報であることを理由に取り寄せることができなかったりと、一筋縄ではないかないのが実情です。証拠が足りないと、事実が不明(わからない)ということになってしまいます。裁判実務上、「わからない」ということは、その事実は「存在しない」ということにつながってしまいますので、結局主張が認められず負けてしまうということになります。証拠が足りない部分は、「推論」に委ねるしかありません。できるだけ具体的かつ合理的な論理を積み重ねて、あるべき「事実」を導き出すのです。本件でも、お母様の口座から多額の現金が出金されている「事実」は立証できますが、それをAさんが使い込んだ、ないしは今も持っているという「事実」を立証する証拠は直接的にはありません。施設費用や身の回り品の購入費用を含めてお母様が必要だったのはいくらくらいである、したがってこれを上回る分はお母様のためには用いられていないはずである、ということを主張して、事実上お母様の財産管理を行っていたAさんに合理的な説明を求めることとしました。
共同相続人の一部による遺産の使い込みの
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