虐待、DV、退職勧奨などで抑圧された「小さな声」の代弁者。弱者が沈黙を破り行動できるよう支援
学生時代から、サークルやNPOでの活動を通じて子どもを支援。大切にしているのは「斜めの関係」
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
大学時代、青空子ども会Ⅱという地域の子どもたちと遊んだり、キャンプなどのイベントを行ったりするサークルに所属していました。その他にもNPOのひとり親と子どもをキャンプに連れて行く活動に参加したり、小学校や学童保育、児童館などでアルバイトをしてきました。
そのように子どもと関わる中で、両親の離婚によって子どもが不安を抱いたこと、家庭環境に子どもが振り回されてしまうことを、子どもたちを通じて知りました。
子どもたちの状況に胸を撃たれ、どうして親以外でこの子たちの力になれる大人がいなかったのだろうかと考えました。
離婚に向けた手続きは、基本的に父母の間で行われます。父母にそれぞれ弁護士が就くことはあっても子どもに弁護士が就くことはまずありません。
離婚に際して子どもは、両親が何について話し合いをしているのか分からず、「片方の親と離れ離れになってしまうのか」「きょうだいとは会えなくなってしまうんじゃないか」「自分はどうなるのだろう」などと不安に感じることも多くあります。
実際に父母の離婚が子の生育に及ぼす影響に関する心理学的知見も多数報告されています。
両親の離婚などの重要な局面において、子どもを支援する方法はないかと考えていると、アメリカに倣って日本でも、「子どもの手続代理人」制度を導入しようという動きがあることを知りました。
2013年の家事事件手続法の制定の際に導入されたこの制度は、家庭裁判所の調停・審判に参加する子どもに弁護士がつき、意見表明や手続きをサポートするものです。子どもの手続代理人は、父・母どちらの味方でもなく、子どもの声に耳を傾け、子どもにとって最善の利益を実現する活動をします。そして法律上、子どもの手続代理人には原則として弁護士がなることとされており、弁護士を目指そうと決意しました。
そんな経緯もあり、私のモットーは「いつまでも子どもの側に立った大人でいる」です。子どもたちとは、「斜めの関係」を保てるよう心がけています。指導する側と教わる側のように縦の関係を築くのではなく、友達同士のように横の関係を目指すのでもない、その中間のバランスを意識しています。
大人、つまりは専門的知識や活動する力のある人物が、子どもサイドで寄り添って声を上げるお手伝いをすることが重要と考えています。
ーー現在の事務所に入ったきっかけは何ですか。
子どもに関する事件のみならず、大企業や国家権力を相手に少数者のために闘う姿こそが私の抱く弁護士像でした。そのため人権を重視し、社会的活動に取り組む事務所に入りたいと考えていました。
私は東京出身なのですが、地方の法律事務所で勉強する機会を得た際に「地域に寄り添う弁護士」というのも面白いと考えていました。自然と、東京であっても都心よりは周辺部(北千住や多摩、蒲田など)に目が向いていました。更にそこから多摩川を越えて川崎に縁をいただきました。
関東近郊の街の中でも川崎は人間味にあふれ、様々な背景を有する方々が暮らしています。労働者の街として労働事件についてのニーズも高い地域です。その上で川崎合同法律事務所は弁護士数が地域最多(現在は16人)でありながら弁護士同士の仲も良く、私は「この事務所でなら輝ける」と思い、川崎合同法律事務所に入所することとなりました。
ーーどのような学生生活でしたか。
先ほど話したボランティアサークルの幹事長を務めたほか、特別支援学級や学童保育、NPOなどでの活動にも打ち込みました。子どもたちと過ごす時間が楽しく、充実した日々を送っていました。
大学では憲法のゼミに在籍し、知る権利や外国にルーツを持つ子どもの学習権、天皇を辞める権利などについて研究しました。
2019年の平成天皇退位の際は大学での研究について思い出し、ゼミ仲間とともに最先端の議論をしていたのだなと胸が熱くなりました。天皇は同じ人であるのに、憲法における平等条項の外に存在するため、法の下の平等が及ばないとされます。こんなことがなぜ許されるのか、この状態を解消する方法はないのかと考えていました。
案件を俯瞰し、依頼者の決断をアシスト
ーー注力している分野を教えてください。
地域に入って市民に寄り添って活動をしているので、企業側の労働事件や反社会的勢力からの依頼以外はどのような事件も受けるようにしています。
その中でも特に柱に据えているのは労働、離婚、子どもに関する問題の3つです。
まず、労働では、労働組合から、職場で辛い目に遭った人の支援を頼まれる機会が多くあります。労働者の権利を守るため、相手企業の大小を問わず、交渉や法廷での闘いに臨んでいます。労働事件は生活に直結する一方、弱い立場の労働者が諦めてしまうこともよくあります。労働実態を丹念に聞き取って、共に証拠を探し、諦めずに主張を展開していきます。
離婚事件は人のドロドロとした部分に触れるため、苦手とする弁護士もいるようです。反対に私はお話を伺うのが好きなのでドロドロとした部分も大歓迎です。
金銭面での解決だけでなく、その後の親子間交流をいかに調整するのかも含めて柔軟な対応が求められます。まさに弁護士の手腕が問われる分野の一つです。日々研鑽を重ねながら、1件1件真摯に取り組んでいます。
子どもに関する活動は私の特長でもあります。神奈川県弁護士会の子どもの権利委員会に参加して知見を得たり、様々なNPOや団体とつながって子どもたちの置かれた生の状況を知るように努めたりしています。
児童相談所の代理人として、一時保護した子どもを施設で預かるための手続きなどの法的な手続きを担うこともあります。児童虐待の通告件数が年々増える中、弁護士として法的手続きを踏まえた判断を求められるケースも増えており、今後も力になりたいと思っています。
また、小学校や中学校、高校でいじめ予防のための出張授業を行うこともあります。高校や大学では過労死防止に向けた啓発授業も行っています。大手広告代理店で長時間労働やパワハラに苦しんだ末、自ら命を絶った新入社員の記録を基に、働くことの意味を考えてもらいます。
ーー「子どもに対する法律援助」という制度に注目していると伺いました。どのような制度なのですか。
簡単にいうと、子どもが弁護士のサポートを原則無料で受けられる制度です。虐待や体罰、いじめなどを受けていて、救済を必要としているけれど、親などの協力が得られない子どもが主な対象です。弁護士は、虐待をする親などとの交渉、施設などへの入所に向けた手続きなどを代行します。
この制度は、日本弁護士連合会(日弁連)が行なっている委託援助業務の一つです。弁護士費用は、日弁連が事業を委託している法テラスという機関から支払われます。我々弁護士が払う日弁連会費などを主な財源として成り立っています。そのため、原則として子ども自身が費用を負担する必要はありません。
子どもに費用負担が生じないことから、弁護士との委任契約を親が取り消すことができないという点でも優れています。
辛い状況から子どもを救い、安全をはかる上で、非常に有効な制度だと考えています。
ーー仕事をする上で心がけていることを教えてください。
法律の専門家として、依頼者に寄り添いながらも第三者の視点を持ち続けることです。
お気持ちを受け止め、共感をしながらお話を伺っているとついその人のお話のみで検討を進めがちになったり、他方当事者の事情を考えなかったり、重視すべき事柄を軽視してしまったりしそうになります。客観的な視点を失って判断を誤ってしまうのは弁護士としては望ましくないので、そのバランスに気を付けています。
依頼者にとって最大限利益のある結果を導くためには、常に状況を俯瞰して適切な対応を行うことが求められます。依頼者の気持ちや考えに理解を示しつつも、同化はしないように心がけています。
また、依頼者の答えは依頼者が出すべきであり、弁護士が決めつけてはならないとも考えています。弁護士は状況を法的に整理し、様々な方策のメリット・デメリットを分かりやすくお伝えするなど、依頼者の決断をアシストする立場です。依頼者の自己決定を尊重することが重要と考えていますので、私の意見を押し付けたりすることがないように気をつけています。
ーー弁護士として活動してきた中で印象的だったエピソードを教えてください。
シェルターで出会った子どもの中に、いわゆる「ヤングケアラー」(本来であれば大人が行うべき家族の世話を、日常的に行なっている子どものこと)の子がいました。家族の世話を押し付けられて、たまらずに家から逃げ出し、シェルターに保護されたのです。
家庭環境を鑑みて、シェルターでしばらく過ごした後は、社会適応を目指す自立援助ホームという施設に入ることになりました。今も、アルバイトをしながらホームでの生活を続けています。家族への思いもあり、完全には関係を絶てない中で、どのように家族と交流しながら今後自立していくかといった点に子どもと一緒に悩みました。
私が出会った子どもは、幸いにも、必要な支援につながりました。ただ、ヤングケアラーは、本人や周囲に自覚がないことが少なくありません。なかなか「助けて」と声を上げられない方も多く、表面化しにくい問題です。
家族のケアをすることが日常的になると、学業や友人との関係などにも支障が出る可能性があります。子どもの権利侵害を防ぐには、SOSを早期にキャッチし、適切な支援につなげることが必要です。
他方で、家族のケアによって自己効用感を得たり、家族と一緒にいることがその子のアイデンティティとなっていたりすることも多く、一概にヤングケアラ―を“かわいそうな子”として見るのも誤りです。
単純にその子をケアから分離すればいいというものでもありません。その子を取り巻く状況や気持ちを丁寧に受け止めながら対応していくことが求められます。
学校や行政機関、NPOなどと連携して取り組んでいきたい問題の一つです。
また、離婚の案件では配偶者のDVに苦しんでいる方をよく担当します。依頼者は、暴力や暴言による恐怖に支配され、もはや抵抗できなくなってしまっていることも多いです。そのため、私が本人に代わって、相手との交渉を進めていきます。
先日も、あるDV案件で無事に離婚を成立させることができました。子どもの親権を得られた上に、財産分与などの条件面でも本人の希望が通る結果になりました。依頼者から深く感謝されたことが心に残っています。
勢いで行動せず、まずは問い合わせを。正しい情報を得るためにも弁護士との無料相談を活用して
ーー休日の過ごし方を教えてください。
家族揃って生き物が好きで、水族館や動物園をよく訪れています。私はペンギンのファンです。愛が深すぎて、長崎県にある専門の水族館に足を運んだこともあります。最近は保護猫を飼い始めて、猫と過ごす時間に癒されています。
学生の頃からボードゲームが好きで、持っているゲーム数は400を超えます。好きが高じて「離婚届にサインしてッ!!」というカードゲームの法律監修をさせていただきました。
「夫の財布から、ラブホテルのレシートが出てきた」など、有利な証拠を集めて勝利を目指すものですが、堅苦しい法律の問題をゲームに落とし込んで離婚に関する知識をつけてもらうきっかけになる作品です。
ーー今後の展望をお聞かせください。
子どもを支援するNPOとのつながりをより強化したいです。財政的に余裕がない団体が多く、全体的に弁護士との関係も希薄な印象です。法律の専門知識を活かして協力できることが数多くあるので、気軽に相談してもらえる関係性を築くことも私の大切な役割だと思います。
ーー法律トラブルを抱えていて、悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
少しでも疑問や不安に思うことがあれば、ご自身の判断で行動する前に、弁護士に相談してみることをお勧めします。
たとえば、離婚に向けて配偶者との話し合いを進める際、相手から提示された条件が適切なのか分からなければ、承諾する前に一度弁護士にご相談ください。個別の事情を踏まえて、適正な条件か、見直した方がいい部分はないかを確認し、見直した方がいい部分があればどう修正すべきかアドバイスします。
ご自身の判断で承諾すると、不利な条件を、そうと気づかずに受け入れてしまう可能性があります。「本当はより多くのお金を受け取れたはず」「面会交流の条件をもっと詰めればよかった」などと後悔しないために、弁護士のアドバイスを受けてもらえればと思います。
労働問題についても同様です。たとえば、会社に退職を無理やり求められて、「分かりました。もう辞めます」と言ってしまうと、後から撤回することは極めて難しいです。退職の条件なども踏まえて慎重な対応が必要なので、返事をする前にお問い合わせください。
相談したら必ず依頼しなければならないわけではなく、相談のみで終わればそれに越したことはありません。まずは気軽に弁護士にアクセスしてみてください。あなたの悩みを解決するために必要な法律知識や、今後の見通しなどを伝えられればと思います。