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「SOSの出し方」を教えるだけでは、若者の自殺が減らない理由(2)
鈴木晶子さん

「SOSの出し方」を教えるだけでは、若者の自殺が減らない理由(2)

政府が5月30日に閣議決定した「自殺対策白書」(2017年版)は、若年層(40歳未満)の死因の1位が「自殺」であることや、他の年代と比べて(自殺の)減少幅が低いことなど、若者の自殺をめぐる深刻な状況を浮き彫りにした。

特に、男性では10~44歳までの死因の1位が「自殺」だ。こうした実態をうけて、5月15日に公表された「新しい自殺総合対策大綱のあり方に関する検討会」の「報告書」では、「若者の自殺対策のさらなる推進」が盛り込まれた。検討会のメンバーでもある鈴木晶子さん(一般社団法人インクルージョンネットかながわ代表理事)に聞いた。(渋井哲也)

●「SOSの出し方教育」

鈴木さんが「検討会」の議論の中で注目したのは「SOSの出し方教育」だ。

「SOSの出し方も大切ですが、順番が逆だと思う。まず変わるのは大人側。子どもたち、若者たちはすでにSOSを出しています。せっかく発したSOSは、大人にとっては甘えに聞こえます。説教されてしまう若者たちを見てきました」

SOSの出し方だけが強調されるのは、鈴木さんには違和感があるそうだ。検討会でもそうした発言をした。事務局にはメールも出した。

その結果、報告書には、〈教師がSOSの出し方を教えるだけでなく、子どもが出したSOSについて、教師を含めた周囲の大人が気づく感度をいかに高め、また、どのように受け止め、子どもに寄り添い命をつなぐかという視点も重要〉との文言が入った。

「子どもたちはSOSをうまく出せません。真面目で不器用な子どもほど立ち止まって、引きこもったりします。きちんと受け止めることを前提にして、SOSの出し方教育をしてもらいたい」

〈ICTも活用した若者へのアウトリーチ策の強化〉も取り上げられている。若者は自発的に相談窓口になかなか行かない。一方で、インターネットを使って、自殺をほのめかしたり、手段を検索している。

「子どもたちにヒットするようなサービスがない。だから、子どもたちはインターネットの中へ行く。悩んでいる子どもは、困った大人にひっかかることがある。(私たちのようなに)きちんとした支援者たちが、そうしたネットの相談者よりも検索した時に上位に表示されることが大切です」

●「毎日、『死にたい』という声を聞く」

鈴木さんが代表理事をしている「一般社団法人インクルージョンネットかながわ」は、子どもの支援拠点や居場所として「Spaceぷらっと大船」を運営するほか、鎌倉市から委託を受けた生活困窮者自立相談支援事業「インクル相談室鎌倉」や学習支援事業を行なっている。

「自殺対策として活動しているわけではありませんが、毎日、『死にたい』という声を聞いています。『自信がない』『価値がない』。だから『生きている意味がない』『誰からも価値を認めてくれない』。そんな子どもたち、若者たちがいます」

鈴木さんがもう1つ理事を務めている「NPO法人パノラマ」では、高校で昼間にカフェを開いている。

「地域にはいろんな大人がいます。貧困問題が怖いのは、余裕のある大人が周囲にいる階層の子と、いない階層の子がいるということ。後者の場合、大人との出会いがなく、孤立しています。大人たちだって、貧困で余裕はありません。地域や階層で違うんです。カフェの活動を自殺対策で読み直すと、子どもがSOSを出したらキャッチできる大人を増やすことです」

このほか、子どもは、公立学校から私立学校へ進学などした場合、そこで支援が切れてしまうことがある。社会的養護の子どもたち(児童養護施設などに入所する子どもたち)も、高校や大学の卒業時に、福祉の支援がなくなる時がある。また、知人を自殺で亡くした経験から思うこともある。

「自分の仕事上のポジションから見えるものは盛り込んでもらいました。しかし、貧困やさまざまな困難とは一見無縁で客観的に見ると『なんでこの人が自殺する?』と思う人が自殺することもあります。その答えは報告書の、どこにもありません。報告書では、死ぬリスクを減らす支援についてたくさん書かれているけれど、生きる理由を作る支援がないのかな」

「報告書」では、細かなことまでは書ききれるものではない。新しい「自殺総合対策大綱」の方向性を示すだけに過ぎない。その大綱も、全体の枠組みを示すのみで、より細かな方針は、市町村が策定する計画に書き込まれる。

そんな中から、個々人が自殺の背景や理由を考えていくことが望まれる。その上で、具体的な予防、介入、事後対応が見えてくるのだろう。

【プロフィール】

渋井哲也(しぶい・てつや)

栃木県生まれ。長野県の地方紙の記者を経てフリーに。子どもや若者の自殺、少年事件、ネット・コミュニケーションを中心に取材している。東日本大震災後は被災地に出向く。近著は「命を救えなかった 釜石・鵜住居防災センターの悲劇」(第三書館)「絆って言うな」(皓星社)など。

(弁護士ドットコムニュース)

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