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2015年10月22日 10時26分

エイベックスが「JASRAC」を離脱して独自路線――「独占」が崩れたのはなぜか?

エイベックスが「JASRAC」を離脱して独自路線――「独占」が崩れたのはなぜか?
写真はイメージ

音楽大手のエイベックス・グループ・ホールディングスは、日本音楽著作権協会(JASRAC)に任せていた楽曲、約10万曲の管理を、同社の系列会社である著作権管理会社「イーライセンス」に移す手続きを始めた。JASRACを離脱して独自路線を歩む動きで、音楽業界に衝撃が走った。

JASRACはこれまで、著作権者の代わりに、レコード会社や放送局、カラオケ店、飲食店などから楽曲の使用料を受け取り、分配する業務を国内でほぼ一手に行ってきた。エイベックスは今後、イーライセンスに楽曲の著作権管理を委託し、レコード会社や放送局から独自に使用料を徴収する方針だ。

ネット上では、「著作権管理に競争が生まれ、音楽市場が活性化する」「選択の自由が増えることは、常に良いことだ」と期待する声が出ている。なぜ今回のような事態が起きたのか。エンタメ法務に取り組み、自らも音楽活動を行っている高木啓成弁護士に聞いた。

●2001年に新規参入が可能に

JASRACをはじめとする「著作権管理事業者」は、作詞家・作曲家や音楽出版社などの著作権者から「著作権」を預かって、楽曲を使用するレコード会社やテレビ局から「著作権使用料」を徴収しています。そこから、一定の「管理手数料」を差し引いて、残りを作詞家・作曲家・音楽出版社に分配する、という事業を行っています。

たとえば、JASRACは、レコード会社からCDの税抜価格の6%、放送局から放送事業収入の1.5%を「著作権使用料」として徴収します。その後、CDについては徴収金額の6%、放送については徴収金額の10%を「管理手数料」として差し引き、残りを権利者に分配しています。

昔は、音楽分野での「著作権管理事業者」はJASRACしかありませんでしたが、2001年、「著作権等管理事業法」という法律が施行され、新規参入ができるようになりました。こうして、「イーライセンス」や、「ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)」という著作権管理事業者が登場しました。

●「包括契約」の問題点

このように、法律上は、新規参入できる仕組みが作られたのですが、ただ、実際上は、JASRACの独占状態を崩すことはとても難しい状態でした。

特に問題となったのが、JASRACと放送局との「包括契約」です。

テレビ局などの放送局は、放送で膨大な数の楽曲を使用していますが、使用する楽曲ごとに、個別に課金しているわけではありません。著作権使用料として放送事業収入の1.5%をJASRACに支払うことで、JASRACの管理楽曲を「使い放題」という包括契約になっているのです。

JASRACの管理楽曲は300万曲を超え、圧倒的なシェアを誇ります。ですので、放送局は、JASRACの管理楽曲が使い放題である以上、さらにお金を払ってまで他の著作権管理事業者の管理楽曲を使用しようとしないわけです。結果的に、作曲家や音楽出版社は、きちんと放送の使用料を徴収してくれるJASRACを選ぶことになります。

「このような状態は独占禁止法違反ではないか」ということが争いになり、今年4月、最高裁の判断により、「JASRACの包括契約は他業者の新規参入を妨げている」とする高裁判決が確定しました。

この最高裁の判断により、JASRACとしても従来の徴収方法を見直さざるを得なくなり、今年の9月、従来JASRACが放送局から受け取っていた著作権使用料を、利用された楽曲の割合に応じてイーライセンスやJRCとシェアすることが合意されました。

●エイベックスの狙い

今回のエイベックスの狙いは、2つあると思います。

ひとつは、音楽CDの売上が減少しているため、著作権管理事業に力を入れて、より収益性を高めることです。近年、音楽CDの売上は全盛期の半分程度まで落ち込んでいますが、JASRACの著作権使用料の徴収額は堅調で、むしろ90年代よりも上昇しています。

その中でも、放送局から徴収する使用料は年間300億円を超えており、レコード会社やカラオケ事業者から徴収する使用料よりも、ずっと大きな金額です。そして、この放送局からの著作権使用料について、JASRAC・イーライセンス・JRCがシェアすることが合意されたわけです。

このような事情で、著作権管理事業について堅調な収益の見通しがついたため、今回、エイベックスは、自社(関連会社)が有する楽曲の著作権の管理をJASRACからイーライセンスに移し始めたのだと思います。

イーライセンスは、JASRACよりも管理手数料が低く設定されているため、その分、作曲家などの権利者に多く分配されます。これを機に、エイベックス以外の権利者も、JASRACではなくイーライセンスを選ぶようになれば、イーライセンスの収入も増加することになります。

もうひとつの狙いは、より柔軟な宣伝広告活動を行うことです。

たとえば、JASRACが著作権を管理している場合、レコード会社が宣伝用途でCDを無償配布する場合にも、JASRACに対して著作権使用料を支払わなければなりません。しかし、イーライセンスは、この場合には著作権使用料を徴収しません。ですので、エイベックスは、イーライセンスに著作権管理を任せることにより、CDの宣伝広告活動をより柔軟に行うことができるようになります。

●独占が崩れると何が起きるか

今後、JASRACによる独占が崩れ、競争原理が働けば、それぞれの著作権管理事業者は、著作権使用料を引き下げたり、管理手数料を見なおしたり、より柔軟な管理方法を選択できるようにして、サービスを向上させることが考えられます。

これにより、レコード会社やライブハウスなどがより楽曲を利用しやすくなったり、権利者により多くの分配金が還元されるようになることが期待されます。

レコード制作、音楽出版社、マネジメント事業など様々な事業を手掛けているエイベックスが、著作権管理事業も手掛けるというのは新しい試みであり、どのような影響が出てくるのかは、まだまだわからないところです。今後も注目していく必要があります。

(10月23日追記)

放送の管理手数料のパーセンテージについて、15%と表記していましたが、JASRACから15%は文化庁長官へ届け出た上限料率(届出料率)であり、実際に適用している実施料率は10%との指摘を受けたため修正しました。

(弁護士ドットコムニュース)

高木 啓成弁護士
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。ミュージシャンやマンガ家の代理人などのエンターテイメント法務のほか、IT関係、男女関係などの法律問題を扱う。音楽事務所に所属し作曲活動、ロックドラマー、DJとして活動し、「hirock’n」名義でiTunes等にて自らの楽曲を音楽配信している。
Twitterアカウント@hirock_n
SoundCloudURL:http://soundcloud.com/hirock_n
所在エリア:
  1. 東京
  2. 中野
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