東京・新宿の路上で動画配信をしていた女性がサバイバルナイフで刺殺された事件。TBS NEWS DIGなどによると、逮捕された男性は、女性に多額の金銭を貸しており、その返還をめぐるトラブルがあったそうです。
男性は女性を相手に民事裁判を起こし、勝訴判決も得ていたと報じられていますが、それでもお金は返ってこなかったようです。
SNS上では「勝訴判決があるのに、なぜお金が返ってこなかったのか」と疑問に思う声もあります。あくまで一般論として、簡単に解説してみました。
●「勝訴判決だけ」では自動的に返ってこない
お金の貸し借りのトラブルで、民事裁判で勝訴の判決を得ても、自動的にお金が返ってくるわけではありません。 裁判で負けた場合に、「それなら仕方ない」とお金を払ってくれる債務者(この場合、お金を借りた人)もいますが、払ってくれない債務者もいます。
せっかく裁判で勝っても、お金が回収できなければ、判決書はただの紙切れです。この場合には、勝訴判決に基づいて強制的にお金を支払わせるための手続き(強制執行)が必要になります。
●強制執行が空振りに終わることはよくある
最初に起こした「お金を支払え」という裁判と、強制執行とは別の手続きです。
そして、強制執行のためには、判決や和解調書などの自分の権利を証明するもの(債務名義といいます)がある、ということのほかに、「相手のどの財産に強制執行をかけるか」を債権者(この場合、お金を貸した人)の側で特定しなければなりません。
この特定は、なかなか大変です。
強制執行の対象としては、相手の銀行口座の預貯金や給料債権、各種の動産・不動産などがあります。
今回のケースであれば、相手方の銀行口座の預貯金に強制執行することが素直だと思います。
債務者と何らかの取引があり、そのときに使っていた口座名義や口座番号を知っているのであれば、その口座にある金銭に強制執行することが考えられます。
しかし、債権者に知られている口座に大金を残しておく債務者はそう多くないでしょう。強制執行されるかもしれないと思っている債務者は、債権者の知らない口座にお金を移してしまう可能性が高いです。
債権者が把握している債務者の口座を差し押さえても、ほとんどお金が入っておらず、強制執行が空振りに終わることはよくあります。
●相手の口座を調べる方法
相手方が持っている口座などを調べる方法として、「弁護士会照会」という制度があります。弁護士に依頼すると、この制度を使って弁護士が相手方の口座を調べてくれます。
弁護士が調べたからといって、必ず口座が判明するわけではありません。また、判明した口座にお金があるとも限りません。
極端な話、債務者が全部お金を使ってしまっており、財産が全然ない場合には、強制執行をしても何も回収できないことになります。
●お金を回収するのはとても大変
残念なことに、裁判で負けてもお金を払わない債務者はそれなりにいます。そこで、裁判にあたっていろいろな対策を検討します。
たとえば、裁判中に財産を隠されてしまうおそれがある場合には、債務者が勝手に財産を処分することを禁じる「仮処分」という手続きをおこなったり、また判決を得たら(判決確定前でも)すぐに執行できるように、「仮執行宣言」をつけてもらったりします。
こういう手続きは、かなり細かく、せっかく裁判で勝ってもお金が回収できない危険はそれなりに高いです。
リスクを減らすためには、弁護士に依頼したほうが良いでしょう。
もちろん、強制執行や、その前提としての調査を弁護士に依頼すると、弁護士費用がかかります。
しかし、弁護士費用が支払えない場合には、法テラスの民事扶助制度というものもありますし、依頼まではせずとも、法律相談に行ってアドバイスを受けるだけでもずいぶん違うのではないかと思います。
お住まいの地域の役所で無料法律相談が実施されていることも多いですし、弁護士会も無料相談をおこなっていたりしますので、まずは弁護士に相談してみるのが良いと思います。