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新聞配達、裏に留学生の過酷労働 出井康博さん「新聞記者は取材して」
出井康博さん(2019年6月4日、編集部撮影、都内)

新聞配達、裏に留学生の過酷労働 出井康博さん「新聞記者は取材して」

新聞奨学生SOSネットワーク主催のシンポジウム「留学生と日本語学校と新聞の闇」が6月4日、都内で開催された。

留学生の労働問題にくわしいジャーナリストの出井康博さんが、特に都会では留学生がいないと新聞配達が成り立たなくなっていると指摘した。

労働環境も厳しいといい、新聞記者に向けて「新聞販売の現場を取材してほしい」と呼びかけた。

●「新聞奨学生」になる留学生が増加

出井さんによると、新聞販売店では日本人の働き手が集まらなくなっており、ベトナム人を中心に留学生の姿が目立つようになっているという。

その中には、「新聞奨学生」として新たに現地からやってくる人もいる。新聞配達やチラシの折り込みなどに従事する代わりに、学費や給与を支給されるというものだ。

新聞奨学生も近年、留学生が増えている。たとえば、朝日新聞系の朝日奨学会は年間300人ほどの外国人奨学生を受け入れている。

「昔なら苦学生がやっていたが、今アルバイトは選び放題。日本人の新聞奨学生は集まらない。都内には配達員全員がベトナム人という販売店もある」(出井さん)

日本に来る留学生の中には、勉強ではなく、出稼ぎ目的の「偽装留学生」が少なくないことが指摘されている。現地のブローカーに大金を払って来日し、日本語学校などに籍だけを置いて、働くというものだ。

しかし、出井さんによれば、外国人奨学生は本当に勉強目的なのだという。

●週28H以上の違法労働が常態化?

では、そんな学習意欲の高い外国人奨学生を含む、新聞販売店の留学生がどういう仕事をしているのか。

入管法では、留学生の労働は1週28時間以内(学校が長期休業中は1日8時間以内)とされている。しかし、留学生50人以上を取材した出井さんによれば、販売店ではこの規定が必ずしも守られていないという。

出井康博さん(2019年6月4日、編集部撮影、都内)

新聞業界では、部数減などによる経営難から販売店が統廃合し、販売店の配達エリアが広がることがある。現場の人手不足もあって、労働者一人当たりの負担が大きくなりやすい。

学校に通いながらなので、週28時間を超えれば学業にも支障が出かねない。中には「週28時間という建前があるから、超えた分の賃金が支払われない」(出井さん)ということもあるそうだ。

一方で、留学生側には、週28時間超の「違法」な働き方をしているという負い目がある。自分が強制送還の対象になるかもしれないから、告発は難しいという構図になっている。

出井さんは、留学生が新聞を配っているというウィークポイントがあるため、新聞や資本関係のあるテレビ局が、偽装留学生の問題に十分切り込めないのではないかと主張する。

●求められる新聞社の対応「夕刊廃止で労働時間はクリアに」

出井さんは一方で、構造の問題だから販売店だけを責めても解決にはならないとも語る。

「外国人を入れている職種は弱い。日本人がいないから外国人に頼る。弱い企業がさらに弱い外国人に頼り、酷使している。その象徴が新聞販売店」

出井康博さんの用意したスライド(2019年6月4日、編集部撮影、都内)

構造を変えるには、別の会社だからと責任回避することなく、新聞社が主体的に取り組んでいく必要がある。

出井さんは、「(新聞社と販売店は)『対等な取引先ですよ』と言うのでしょうが、力関係を見れば対等じゃない」と述べた上で、「夕刊を廃止すれば、労働時間はクリアになる」と提言した。

指宿昭一弁護士(2019年6月4日、編集部撮影、都内)

こうした議論を受けて、外国人問題にくわしい指宿昭一弁護士は、国連が2011年に採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」(ラギー原則)に触れながら、「企業の社会的責任」を追及すべきと指摘した。

「(留学生や技能実習生の)問題の上流には大企業がある。末端の取引先で問題が起きても、大企業は『うちには法的責任はない』という姿勢をとる。でも、この姿勢はもう通らない。こういう考え方を通してはいけない」

「すべての企業、とりわけ大企業には人権を守る社会的責任があるという考えが国際潮流になりつつある。自社だけでなく、サプライチェーンを含めて、人権侵害が起きていないか調査し、改善に動くべき。新聞社だけでなく、日本社会全体の課題だ」

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