2019年4月から始まる「有給休暇」の取得義務化を回避するため、企業側が「裏ワザ」を使う可能性がネットで指摘されている。
義務化では、有休が年10日以上付与される労働者に対しては、有休日数のうち年5日を企業が時季を指定して取得させることが義務付けられた(ただし、労働者が計5日以上の有休を取得済みの場合は、その必要はない)。
ツイッターでは、労働者が休むことを良しとしない企業が、これまで休みだった土曜日を年数回出勤日扱いにしたり、夏休みなどをなくしたりするのではないか、との疑念が広がっている。これをされると事実上休みが増えない。
ただし、労働問題にくわしい黒柳武史弁護士によると、こうした手法は「無効になる可能性が高い」という。
●「禁止」ではないが「不利益変更」と認定される可能性大
厚生労働省が中心となって発行している法改正のパンフレットでは、このような手法について「望ましくないもの」と回答するにとどまっている。
弁護士ドットコムニュースの取材に対し、厚労省の担当者は次のようにコメントした。
「改正法上、禁止されているわけではないので、こういう表現になっています。監督・指導の対象にはなりませんが、『望ましくない』ということは周知していきます。労働条件の不利益変更に当たる可能性はありますが、そこは裁判所が判断する部分です」
では、裁判になったらどうなるか。黒柳弁護士の見解は、こうした手法は「認められない」と判断される可能性が高いというものだ。
●法改正の趣旨や労働契約法に抵触
ーーなぜ、こうした手法は問題になるのでしょうか?
「今般の労働基準法改正により、低調だった有休取得の促進が図られることが期待されています。
これに対し、指摘されている企業の手法は、これまでの所定休日を労働日に変更し、その労働日を有休として時季指定するというものです。
しかし、これでは実質的な有休増加にはつながらないため、この手法が改正法の趣旨に照らして望ましくないことは明らかです」
ーー「不利益変更」という話がありましたが、法的にはどういう問題になりますか?
「所定休日の労働日への変更は、就業規則の変更を通じて行われることになると考えられます。
就業規則の変更には、労働者の過半数代表者等からの意見聴取などの手続を踏む必要があるほか、変更が合理的なものであることが求められます(労働契約法10条、11条)。
しかし、単に有休の時季指定義務の回避を目的として、上記のような変更を行う場合に、変更の合理性が認められるケースは考え難いといえます。
よって、このような変更は無効となる可能性が高く、結果、その企業は有休の時季指定義務を果たしていないとして、法律違反に問われるリスクが生じることになります」
●悪用の露呈は企業にとってもリスク「制度趣旨に沿った運用を」
黒柳弁護士は「万一、勤めている企業が悪用してきたら、社内外の労働組合や弁護士などの専門家に相談するなどして、対処すべきでしょう」と話す。
企業としても、ネットなどで悪用が露呈すれば、名前に傷がつくのは必至。制度趣旨に沿った運用が求められる。
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