歩きスマホがくせになっている会社員のYさん(20代)は先日、とうとうケガを負ってしまった。
ある朝、いつものように出社しようとしていたところ、マンションの階段を踏みはずして、そのまま転んだのだ。高さは3〜4段ぐらいだったが、とっさにスマホ(iPhoneX・15万円相当)を壊さないように身体をよじったため、顔や手を擦りむいて、前歯も少しかけてしまった。
ソーシャルゲーム好きのYさんはいつも、通勤中や駅のプラットホームでも歩きスマホをしている。仕事の連絡で歩きスマホをすることはあるが、ほとんどはゲームだ。この日も数年前に人気沸騰したあのソシャゲ。Yさんが歩きスマホでケガをしたのは、今回が初めてという。
●「歩きスマホ」の危険性はメディアでも指摘されている
病院では、全治数週間と診断された。交際している彼女には「いい年して何してるの!」と怒られてしまったが、幸いにも仕事に支障は出ておらず、職場で「その顔どうしたの?」と話しかけられるなど、まるで人気者になったような感覚を得ている。
ただ、通院のために会社を抜けなければならない。事故から数日経った今でも、お風呂に入ると、涙が出るくらい痛いという。また、口がうまく開かないため、固形物はうまく咀嚼できない。主な食事はゼリー飲料だ。
通勤中のケガとはいえ、これだけメディアで、その危険性が指摘されているにもかかわらず、歩きスマホをするなんて、飛んで火に入る夏の虫だろう。Yさんは「二度と歩きスマホはしない」と言うが、そのケガに労災保険はおりるのだろうか。山田智明弁護士に聞いた。
●「歩きスマホ」の自傷事故でも給付の対象になる
「結論からいいますと、労災保険はおります。
法律上は、『重大な過失』があるとして、給付制限の対象となることも考えられます。
ただ、労災実務上は、通達によって、『重大な過失』が給付制限の対象となるのは、労災事故発生の直接の原因となった行為が、法令上の危害防止に関する規定のうち、罰則の付されているものに違反する場合とされています。
歩きスマホそのものを禁止する法律や罰則はありません。したがって、歩きスマホによる自傷事故は、全額給付の対象になると考えられます」
●自動車通勤中の「ながらスマホ」だったら給付されないことも
「労災給付は、原則として、業務上の事由(業務災害)または通勤(通勤災害)によって、労働者の負傷が生じた場合を対象としています。
例外として、労災事故を『故意』に発生させた場合は全額不支給です。また、『故意の犯罪行為』や『重過失』に起因する場合は制限があります。
たとえば、自動車通勤中にスマホを操作して、事故があった場合、道路交通法違反にあたりますから、全部または一部が給付されないことになります。
Yさんは、労災給付が受けられるとはいえ、人にぶつかった場合は、民事上の損害賠償責任を負ったり、重過失致死傷など刑事上の問題になったりすることもありえます。歩きスマホは、極力ひかえたほうが良いでしょう」