バスに乗っていたら、急ブレーキがかかって転倒してしまったーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにそのような相談が寄せられました。
相談者は通勤のため、バスに乗っていたところ、急ブレーキで転倒。そのまま職場に向かったものの痛みが酷くなり、病院に行ったところ、お尻の尾骨あたりの骨にヒビが入っていました。バス会社は転倒したことを把握していて、その後は保険会社とやり取りし、治療費なども含めて上限120万円を支払うことを伝えられたそうです。
ただ、指定の病院でないと保険が下りないなどと言われ、相談者は「保険会社にうまく言いくるめられているんじゃないか」と不安になっています。
このようなケガで、バス会社に対する損害賠償請求はどのようなものが可能でしょうか。平岡将人弁護士に聞きました。
●急ブレーキで怪我をしたら、バス会社や運転手に損害賠償を請求できる
ーーわざとかけた訳ではない急ブレーキで、利用者側が損害賠償を請求できるのでしょうか
「損害賠償は請求できます。業務として乗客を運送しているバス会社及び運転手には、バスの運行にあたり、乗客の安全を確保すべき義務があります。
急ブレーキは、乗客に危険を及ぼす運転ですから、周囲の危険を予測して、急ブレーキをしなくても良い運転をするように注意しなくてはなりません。それに反して運転し、急ブレーキをかけたことで怪我をした場合には、バス会社及び運転手に対して損害賠償を請求することができます」
ーー「急ブレーキにご注意ください」などとアナウンスをしていた場合は、賠償額に違いがあるのでしょうか
「バスの乗客も、走行中の揺れや事故を避けるための急ブレーキなどがあることを予測し、自ら安全確保に努めるべき義務があります。具体的には、座席に座るとか、立っている場合にはつり革や手すりをしっかりつかまるなどです。このような義務に反した場合、損害の一部は自己責任であるとして、損害額が減額されることがあります。これを『過失相殺』と呼びます。
バスの運転手の呼び掛けによって、乗客は自らの安全確保ができますから、乗客側の責任が増える、つまりバス会社の支払う損害賠償が減ることがありうると思います。ただ、急ブレーキの場合は、とっさにかけるものですから、呼びかけがあっても、乗客が直ちに反応できないと思いますので、過失相殺に影響はないのではないでしょうか」
ーー具体的には、どのような請求ができるのでしょうか
「治療費、病院へいくための交通費、仕事を休んだ場合の休業損害、後遺障害によって今まで通り働けなくなった場合の損害である逸失利益、そして精神的苦痛に対する慰謝料です。
交通事故の類型に入りますから、自賠責保険や自動車保険の支払い対象となります。120万円というのは、自賠責保険の後遺障害部分以外の上限額ですが、それを超える損害がある場合でも請求できます。今回のケースでは、指定病院じゃないと保険がおりないと言われていますが、それも従う必要はありません。また、通勤中の災害ですから、労災保険の利用も可能です」
ーーこのようなことが起きないために、バス会社としてはどう対処すればいいのでしょうか
「バス会社側の予防策は何より、安全運転を心掛け、急ブレーキや急ハンドルを起こさないようにすることです。ただ、それでも事故を防ぐために急ブレーキなどをしなくてはならないことがあるでしょうから、日ごろから停車するまでは立たないでほしいこと、立つ場合には必ず手すりやつり革をしっかり掴んでもらうことなど、乗客の安全確保を促すのが良いと思います」