弁護士ドットコムに「成人した無職の息子が交際相手を妊娠させてしまった」という相談が寄せられました。両親はそもそも息子に彼女がいたことも知らず、実家を訪れた交際相手の両親から聞いて初めて知ったそうです。
息子からは、交際相手の両親が訪ねて来る数日前に連絡があったものの、その後音信不通となっています。この状況に恋人も不信感を抱き始めており、結婚はともかく「認知はしてもらいたい」との申し出がありました。
しかし息子には借金があり、本人による金銭的な対応は期待できない状況です。このまま息子が行方不明のままだったら、親が代わりに責任をとる必要があるのでしょうか?川見未華弁護士に聞きました。
●息子にはどのような法的義務がある?
——交際相手を妊娠させた息子にはどのような法的義務が生じるのでしょうか?
息子は、交際相手と婚姻関係にないため、このままでは、法的に子の父親とは認められません。子の「認知」をすることによって、息子は、父親としての法的責任を負うことになります。
胎児の時点でも認知をすることはできますが、制度上、胎児認知を父に強要をすることはできないため、息子が音信不通で居所もわからない場合は、胎児認知の手続きを進めることは難しいでしょう。
この場合は、出産した後に、交際相手(子の母親)が、息子(子の父親)に対して認知をさせる手続(調停、裁判)を行うことができます。子の認知が認められれば、息子は、子の父親として、養育費の支払義務を負うことになります。
——もし相手が出産しないことにした場合ではどうでしょうか?
交際相手が子を出産しない選択をして、中絶をした場合にも、息子は、交際相手に対して、責任を負う場合があります。
裁判例では、合意で性交渉をし、合意で妊娠中絶手術を行った男女間において、男性が女性の身体的、精神的苦痛や、経済的負担を軽減し、解消するための行為(子を生むか中絶手術を受けるかなど、今後について具体的な話し合いをし、必要に応じて経済的負担も分担する行為)をしなかった場合に、損害賠償義務を負うと判断されています。
本件でも、息子が交際相手を妊娠させた後に、話合いもせずに音信普通になってしまった場合、その後、交際相手が中絶手術を選択せざるを得なかったときには、息子が損害賠償義務を負うことになると考えられます。
——息子が交際相手を妊娠させた場合、息子の親に何か責任が発生するのでしょうか? 以上のとおり、息子は、音信普通になった場合であっても、交際相手が出産し、子の認知が認められた場合には養育費の支払義務を、交際相手が中絶した場合には損害賠償義務を負うことになります。
もっとも、この義務は、成人した息子が負うものなので、息子の親が何らかの法的な責任を負うことはありません。