男性の疑似的な性行為や愛玩・観賞のために作られる「ラブドール」。そんなラブドールに魅せられ、ともに生活を送る人たちの様子を紹介したドキュメンタリー番組「ボクが恋したラブドール」(フジテレビ系)が放映され、「闇が深すぎる」「不思議な関係に心が揺さぶられる」とネットで話題を呼んだ。
番組で紹介された人たちの中に、妻子のもとを離れて暮らし、1Kのアパートでラブドールとともに生活を送る60代の男性がいた。男性は、ラブドールに「イクエ」という名前をつけ、「よき理解者、彼女以上(の存在)」と話す。買い物やスキー場など、外に連れ出しているシーンもあった。
妻はラブドールと暮らしていることを知っている。ただ、ラブドールの存在を完全には受け入れられず、「これを人間だと思っちゃうとややこしいことになっちゃいますもんね」と語っていた。ネットでは、「旦那さんがラブドールを好きなのと女の人に浮気するのとの違いってなんなのか」と指摘する声もあった。
ラブドールは人間ではないが、夫がラブドールと暮らしていることに妻が堪えられなくなった場合、離婚の理由になるのだろうか。ラブドール相手の場合でも「浮気」といえるのだろうか。寺林智栄弁護士に聞いた。
●疑似的な性交渉は「不貞」にあたらない
「個人的には、『浮気(法的には不貞行為)には該当しないが、別の裁判上の離婚原因にはなりうる』と考えます」
寺林弁護士はこのように述べる。
「浮気(不貞)という概念は、配偶者の性交渉の相手が『生身の人間』であるケースを指します。
そうすると、命のないラブドールが相手では、浮気と認定することはできないと考えます。
また、ラブドールと疑似的な性交渉は、アダルトビデオを鑑賞しながらの自慰行為に類似する側面があるといえるでしょう。
ですから、疑似的な性交渉をラブドール相手に行ったというだけでは、浮気に類似するとはいえず、離婚原因にはならないと考えます」
では、どんな場合に離婚原因になるのだろうか。
「ラブドールにのめりこむあまり、その衣服や調度品などに散在して生活費を家計に入れなくなる、あるいは、番組で紹介された男性のように、妻子のもとを離れて、その人形と暮らすことを選ぶなどという事態になれば、『婚姻を継続しがたい重大な事由』として、裁判上の離婚原因があると認定される可能性が高くなるでしょう」
寺林弁護士はこのように述べていた。