労働者の仕事ぶりをドローンが監視する――SF映画に登場するような光景が現実のものになったことを紹介する記事が、ニュースサイト「News Picks」に掲載された。タイトルは「労働者を厳しく監視。建設現場で物議をかもすドローン」というもので、IT企業のIBMがスポンサーになっている記事だ。
記事によると、アメリカ・カリフォルニア州のプロバスケットボールチーム「サクラメント・キングス」の新スタジアムの建設現場では、ドローンが工事の様子をビデオで撮影し、進捗状況を管理している。一日に一度、数機のドローンが巡回し、工事の状況を撮影。その映像をコンピュータのソフトウェアに取り込むことによって、工事が遅れている箇所がわかるのだという。
ただ、記事では、労働者のプライバシー問題を指摘し、「このような監視の強化は、さらなる論争を呼ぶことになるかもしれない」としている。もし日本で同様のシステムを導入した場合、法的な問題が生じないだろうか。労働問題に詳しい波多野進弁護士に聞いた。
●労働者のプライバシーに配慮した仕組みを
「ドローンを用いた今回のようなシステムを使って、労働者を監視撮影することは、法的に問題になり得る場合があると思います。
労働者が勤務時間中に職務に専念すべきことは当然ですので、仕事をきちんとしているかどうかを点検するため、ドローンで監視することに問題がないという立場もあると思います。
しかし、事前にドローンでの監視をするという告知がなく、網羅的に労働者の顔や姿を撮影することは、プライバシーの侵害にあたる可能性があります」
職場のような、完全に私的とはいえない空間でも、個人のプライバシーが保護されるということだろうか。
「工事の進捗を正確に把握するために、労働者の仕事ぶりを撮影することは、正当な業務目的として、すぐには法的な問題にならないと思います。
しかし、あとになって、労働者のコントロールの効かないところで、工事の進捗管理という目的以外で、撮影された映像が利用される危険があります。
しかも、労働者は映像を利用されていることすら分からない可能性があるため、労働者にとって不意打ちになりかねません。
また、休憩時間中の労働者も撮影の対象になる可能性が十分あります。
休憩時間は心身ともに労働から完全に解放されるべき自由な時間ですから、監視されている状況で、完全に労働から解放されているのかという疑問もあります」
使用者側には、どんなことが求められるだろうか。
「このようなドローンで労働者を撮影する場合、使用者は労働者に対して、事前に撮影の趣旨と目的を説明するべきでしょう。
また、撮影記録の取り扱いを限定して、労働者のプライバシーに配慮する規定を設けたり、休憩時間中の労働者が写らないようにする仕組みを作るなどプライバシーに配慮した仕組みを作った上で導入することが望ましいと思います」
波多野弁護士はこのように述べていた。