弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 労働
  3. "災害レベル"の猛暑、仕事中に「熱中症」で倒れたけど「労災申請」してもらえず…会社側の責任は?
"災害レベル"の猛暑、仕事中に「熱中症」で倒れたけど「労災申請」してもらえず…会社側の責任は?
写真はイメージです(takeuchi masato / PIXTA)

"災害レベル"の猛暑、仕事中に「熱中症」で倒れたけど「労災申請」してもらえず…会社側の責任は?

今年の夏は、"災害レベル"と呼ばれるほどの猛暑が続いています。天気予報によると、8月下旬に入ってもまだ猛暑は続くようです。そのような中、熱中症で救急搬送されるケースが多発しており、仕事中に倒れたという人も少なくありません。

厚労省によると、やはり暑さが厳しかった昨年夏、職場で熱中症で死亡した人は30人、4日以上休養せざるを得なかった人は797人で、いずれも前年に比べて5割近く増えていました。熱中症にかかった人が一番多かったのは建設業、ついで製造業と運送業でした。

死亡した事例の多くで、暑さ指数(WBGT)を把握せず、熱中症予防のための労働衛生教育をおこなっていなかったといいます。また、「休ませて様子を見ていたところ容態が急変した」「倒れているところを発見された」など、熱中症発症時・緊急時の措置が適切にされていませんでした。

弁護士ドットコムにも、高温多湿の場所で水もとれない状態で働かされた人から、「熱中症になってしまったが、会社側に補償はしてもらえるか」という相談や、仕事でトラックに乗る人から、「エアコンが効かないが、会社が対応してくれない。もしも熱中症で倒れたら、慰謝料請求できるか」という相談などが寄せられています。

また、中には、仕事中に熱中症となり、救急車で搬送されて4日間入院した人から、「勤め先の会社も元請会社も労災申請してくれない」という悩みも寄せられています。仕事中に熱中症で倒れたら、会社側にはどのような責任が生じるのでしょうか。労働問題にくわしい徳田隆裕弁護士に聞きました。

●予防対策せずに熱中症になったら、安全配慮義務違反に

——会社側は、雇用した労働者が熱中症にならないよう何らかの予防策をとる必要はあるのでしょうか。

会社は、労働者の生命・健康を危険から保護するように配慮する「安全配慮義務」を負っています。

厚生労働省は2009年6月、「職場における熱中症の予防について」という通達を公表しています。会社がこの通達に記載されている以下の熱中症予防対策を実施せず、労働者が仕事中に熱中症を発症した場合、安全配慮義務違反に該当する可能性があります。

(1)作業環境管理
WBGT値(暑さ指数)の測定、通風や冷房をおこなうための設備を設ける等の温度・湿度の低減努力措置、飲料水が備え付けられた休憩場所の整備

(2)作業環境
作業時間の短縮、熱への順化(熱に慣れ当該環境に適応すること)、水分および塩分の摂取、透湿性および通気性のよい服装を着用させること、作業中の巡視

(3)健康管理
健康診断の実施、労働者への健康管理指導、作業開始前の労働者の健康状態の確認

(4)労働衛生教育
労働者に対する熱中症の症状、予防方法、緊急時の救急措置等についての労働衛生教育

具体的には、会社は、WBGTの基準値を超える環境で労働者を働かせないように努めるべきです。仮に、この基準値を超える環境で作業をさせる場合には、温度・湿度の低減措置や、作業時間の短縮、作業時刻の変更等の措置をおこなうべきです。

このような措置をとらずに、労働者が仕事中に熱中症を発症した場合、会社は、安全配慮義務違反に該当し、損害賠償責任を負います。

●熱中症で労災認定をされるポイントは?

——仕事中に熱中症になってしまい、労災認定をされる場合、どのようなポイントで判断されるのでしょうか。なお、通勤中に熱中症になった場合も、労災認定されますか。

仕事中に熱中症を発症したとして労災認定されるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

(1)熱中症を発症したと認められること(医学的診断要件)

熱中症を発症したと認められるためには、作業環境や気温等のデータに加えて、他の疾病ではなく熱中症を発症していることが外見や体温などからも診断できることが必要です。次のabcによって判断します。

a 作業条件及び温湿度条件等の把握
b 一般症状の視診(痙攣・意識障害等)及び体温の測定
c 作業中に発生した頭蓋内出血、脳貧血、てんかん等による意識障害等との鑑別診断

(2)熱中症の発症が業務に起因すること(一般的認定要件)

次のefjを総合判断して認定します。

e 業務上の突発的またはその発生状態を時間的、場所的に明確にしうる原因が存在すること
f 当該原因の性質、強度、これらが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔等から災害と疾病との間に因果関係が認められること
j 業務に起因しない他の原因により発病したものではないこと

仕事中に熱中症を発症した場合、(1)と(2)の要件を満たせば、労災と認定され、労災保険から補償を受けることができます。

通勤の途中で熱中症を発症した場合、通勤災害と認定されれば、労災保険から補償を受けることができます。

——明らかに仕事によって熱中症になったにもかかわらず、会社側が労災申請をしてくれない場合は、どうしたらよいのでしょうか。

労働者が会社に対して、労災申請を依頼しても、会社が対応してくれない場合には、労働者自身で、労働基準監督署へ行って労災申請をしてください。

労災申請をする際に、会社の許可は必要ではありません。仕事中に熱中症を発症して、治療が必要になった場合には、ぜひ、労災申請をすることをおすすめします。

プロフィール

徳田 隆裕
徳田 隆裕(とくだ たかひろ)弁護士 弁護士法人金沢合同法律事務所
日本労働弁護団、北越労働弁護団、過労死弁護団全国連絡協議会、ブラック企業被害対策弁護団に所属し、労働者側の労働事件を重点的に取り扱っています。ブログ(https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog)、YouTube(https://www.youtube.com/channel/UCWJQX9xTgXZegEOHZUidsdw)で労働問題について情報発信をしています。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする