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入社初日バックレ→「うちの子辞めます」 最速退職、法的に問題ない?
退職の連絡は母親がしたらしい(EKAKI / PIXTA)

入社初日バックレ→「うちの子辞めます」 最速退職、法的に問題ない?

無断欠勤した新入社員の母親から会社に退職の連絡がきたというツイッターでの投稿が話題となっています。

投稿者は、すぐそのあとの別の投稿やリプライで「弊社の退職RTA(リアルタイムアタック)記録大幅更新やんけ」「弊社最速」ともツイートしています。

ツイートされた4月3日は週初めの月曜日で、入社初日に新入社員がいきなり無断欠勤したうえ、その後まもなく親が「退職代行」として連絡してきたという状況だったようです。

このツイートに対しては、「私の同期は2時間で退社でした」「初日!大物すぎる」など驚きの声が多く寄せられており、中には「初日でかえって良かったのでは」という意見もありました。

退職の理由などは一切不明ですが、仮に入社初日に無断欠勤をして、いきなり退職を願い出たとして、法的に「退職」と認められるのだろうか。寒竹里江弁護士に聞いた。

●原則は「退職の2週間前」に意思表示すべきだが…

——「退職」に対する制約は何かあるのでしょうか。

労働者側が退職を希望する場合、原則的には退職を禁止する法令上の制限規定はありません。特に理由を示す必要もなく、労働者自らの意思に従って退職することができます。

「労働者の退職の自由」は、憲法22条1項「職業選択の自由」等から導かれる他、民法627条1項(「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」)、同法628条(「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」)に規定されています。

また、労働基準法137条において、「期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る)を締結した労働者は、民法628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる」と定められています。

もっとも、雇用契約は「解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」(民法627条1項)とされています。そのため、退職の意思表示は、退職する日の2週間前にはおこなうのが原則です。

法令とは別に、就業規則などによって、退職届提出から退職に至るまで2週間以上の期間を定めている職場もあります。

——仮に、入社初日に無断欠勤して退職の意思を表示した場合、退職は認められるのでしょうか。

民法627条1項は、継続的な契約である雇用契約において、一方の解約意思表示だけでいきなり契約が終わる場合に、関係当事者に損害が生じることを防ぐ意味を含みます。

特に損害が発生しなければ、必ずしも2週間の告知期間経過を待つ必要もなく、労働者が退職しても支障がない場合もあるでしょう。

また、就業規則などで2週間より長い期間の定めがある場合でも、使用者に特段の不利益や損害が生じない限り、労働者は、民法の定める以上の不利益な拘束を受け入れなくてもいいと解釈されます。

もし入社初日に出社することもなく退職するということであれば、一切仕事をしておらず、業務の引き継ぎ等も発生せず、退職しても会社側に特段の不利益は生じないでしょうから、2週間の解約告知期間を待つまでもなく、退職できると考えられます。

——「入社初日に無断欠勤→退職」したとして、会社から何らかの損害賠償を請求される可能性はありますか。

会社側に雇用契約違反等が何らない場合で、新入社員の退職で会社側が不利益や損害を被るのであれば、損害賠償請求が考えられないわけではありません。

たとえば、入社直後に職場の重要書類を破棄したり、重要書類を持ったまま退職するなど、特に新入社員の故意・過失により会社側に損害が生じた場合は、損害賠償の支払義務を負う可能性がありますが、入社初日に無断欠勤したということであれば、そのような事態もおおよそ発生しえません。

なお、「すぐに辞められると新しい募集や雇用にコストや労力がかかる」といった程度の損害であれば、損害賠償の支払い義務は負わないでしょう。

プロフィール

寒竹 里江
寒竹 里江(かんちく りえ)弁護士 弥生共同法律事務所
東京弁護士会所属 労働事件(セクハラ・パワハラ等の問題や不当解雇等含む)・医療事件・企業法務(人事・雇用問題等)、その他、多方面の案件を手がけています。

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