フードデリバリーのウーバーイーツのように、デジタルのプラットフォーム上で単発の仕事を繰り返す「プラットフォーム労働」をめぐっては、働く人たちの法的保護をどうすべきか、世界的な議論になっている。
日本で制度改正などの動きは乏しいが、ウーバーイーツの配達員たちでつくるウーバーイーツユニオンが、運営会社から団体交渉を拒否されたとして、東京都労働委員会に救済の申立をしていることが注目されている。11月に命令が出る見通しだ。
ユニオン創設時から、支援を続けている川上資人弁護士は「ユニオンの活動によって、自由な働き方が失われるという批判がありますが、1人では交渉力のない人たちが集団で対等な交渉を求めることは、まさに労働組合法が想定していること。自由な働き方が失われるわけではない」と主張する。
戦いの現在地と今後の展望について聞いた。(編集部:新志有裕)
●労働組合法上の労働者にあたることに異を唱える法律家はいない
ーー都労委での審査が5月末で終わり、いよいよ命令が下されるというフェーズに入りますが、どのような手応えでしょうか。
配達員が労働組合法上の労働者にあたることに異論を唱える人は、法律家の中でもいません。
労働組合法については、①事業組織への組み入れ ②契約内容の一方的・定型的決定 ③報酬の労務対価性の3点を基準として判断されますが、ウーバーイーツの配達員がこれらに該当することは明らかです。
配達員がいなければフードデリバリー事業は成り立ちません。そのためにインセンティブの報酬制度をもうけたり、評価制度を用いて配達員の行動を統制したりしています。あの手この手で、事業組織を一定のクオリティでオペレーションできるようにしています。
ーー今回、救済命令が出たとしても、紛争は中央労働委員会や裁判に移行することも考えられます。
今回のような申立てについては、労働者側が立証する必要があり、しかも都道府県の労働委員会、中央労働委委員会、三審制の裁判とあわせて、実質的に「五審制」になっていて、会社側による時間稼ぎが可能になっているという大きな問題があります。
最終的に認められれば、団体交渉はできるようになりますが、それだけで状況が大きく変わるわけではありません。海外では、無権利状態はあまりにもひどいのではないかということで、少しでも手当をしようという流れになっていますが、日本は何も変わっていません。
本当に大切なことは、配達員の人たちが、望ましい環境で働けることです。労災についても、自腹で入る特別加入の制度でいいのでしょうか。一方的にアカウントが停止になった時に、失業手当がない状態でいいのでしょうか。
労働基準法上の労働者であれば手厚く守られていますが、業務委託の配達員になった途端に何もなくなってしまうという格差は本当に合理的なのか、もっと政策論議をすべきです。都労委の命令が、さらなる議論のきっかけになってほしい。
昨年12月9日に開かれた都労委の審問。右側の机に川上弁護士の姿も
●労働基準法と労働組合法を混同した議論が多い
ーー政策形成については、当事者の声や、世論にも影響されますが、ユニオンの主張は社会にどう伝わっていると考えていますか。
多くのメディアに報じられ、大変注目されていると感じますが、誤解をされることも多いです。
配達員は手厚い保護がある労働基準法上の労働者ではなく、個人事業主であることを前提として、団体交渉などが可能な労働組合法上の労働者であるかどうかを争っているのですが、その点を混同した議論が多い。そして、ユニオンが活動をすることで、自由な働き方が失われると批判されます。
しかし、労働組合法については、個人対企業では、圧倒的な交渉力格差があって、全く労働条件についての交渉ができないので、それを可能にしましょう、という話です。交渉をしようということと、自由な働き方が失われるということは、直接は関係のない話です。
ーーその一方で、配達員に労基法を適用すべきだという意見もあります。この点についてはどう考えますか。
労基法が適用されると、例えば残業を可能にするとしても、会社と労働者代表や組合との間で、サブロク協定を締結する必要が出てきます。それができずに、8時間以上の労働ができなくなると、稼ぎが減るという人も出てくるでしょう。
今後、何らかの法的な規制が検討されるなら、労基法に限らず、自由な働き方が損なわれない制度設計をすればいいのです。1カ月に1時間しか働かない人と、毎日長時間働く人の線引きを考えることだってありうるでしょう。働き方は自由でいいので、あまりにも無権利である状態をなんとかしようということです。
ーー労働者かどうかをめぐって、ウーバー発祥の国であるアメリカでは混沌とした状態が続きつつも、司法の判断が大きな影響を及ぼしています。日本でも司法を通じた変化はありうるのでしょうか。
アメリカでは、トラックドライバーの労働者性が争われたダイナメックス事件で、カリフォルニア州の最高裁が、ABCテストと呼ばれる認定の仕組みを示しました。大きなインパクトとして、労働者性の立証責任を労働者側から事業者側に変えたということがあります。
仕組みが違うとはいえ、司法の柔軟性は日本とは全然違いますね。日本の司法では、労働者性の判断基準をちょっと緩くするかどうかが関の山でしょう。
●新たな「法人委託」スタイルは取り締まるべき
ーーウーバー社の動きについてはどうみていますか。
こんなに火をみるよりも明らかな問題について、団体交渉を拒否してきたことについては、理解ができませんでした。当然、レピュテーションリスクも生じるでしょう。
最近の動きとしては、法人委託の広がりに注目しています。スペインでは2021年にライダー法(デジタルプラットフォーム配達員の労働権保障法)が施行されて、配達員は全員、日本でいう労基法の労働者になりました。そこで、ウーバーのようなプラットフォーム企業は、配達員を抱える委託会社を介在させる形にして、配達員と直接やりとりしないようにしました。
日本でもそういう動きがすでに始まっていて、配達員と業務委託契約を結んだ法人に対して、ウーバーが配達を委託するケースが出ています。その法人と契約した配達員は、ウーバーのアプリログイン義務が課されているのに、表向きはウーバーと直接の関係がないようになっています。
そうすると、この法人がウーバーに労働者を供給しているということで、職業安定法44条違反(労働者供給事業の禁止)が考えられるのですが、厳密にいうと、供給先企業(今回の場合ではウーバー)と労働者の間に、労基法上の労働者性が認められることが適用の前提となっているので、なかなか難しい面があります。
しかし、配達員は直接ウーバー社から仕事を請け負っていないにもかかわらず、実態としては、支配されて、過酷な労働を強いられています。完全な脱法行為であり、取り締まりの対象にしないといけない。こういうことが認められると、今やっている議論も意味がなくなってしまいます。
●バラバラで活動しているけど、みんなで議論することはとても楽しい
ーーユニオンの活動状況については、どう感じていますか。
職場というものが存在せず、みんながバラバラで働いているという時点で、組織化については相当難しい面があります。
その中で、毎回熱心に議論をしていることについては、頭が下がります。みな純粋に、どうしたら少しでも環境がよくなるのかを考えています。
今後、団体交渉が実現した場合に、どんな要求をしていくのか、具体的な内容についても積極的に議論しています。みんなで議論をすることはとても楽しいですね。
ーーウーバーイーツユニオン、ヨギーインストラクターユニオン、ヤマハ音楽講師ユニオンといった、個人事業主たちのユニオンの関係者が集まって、フリーランスユニオンが5月26日に設立されました。どのような展開を期待していますか。
フリーランスユニオンの設立記者会見では、司会を担当した
岸田首相がフリーランス保護法を緊急に立法するという話を打ち出した時に、中身がない現状のフリーランスガイドラインを成文化するだけじゃダメだと思いました。
そこで、フリーランスのユニオン同士が協力して、業種の壁をこえて政策提言をしたほうがいいんじゃないかという話になりました。どんどん横に広がって、新しい動きにつながって欲しいですね。