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職場の「働かないおじさん」が再生するための方法 青山学院大・山本寛教授に聞く
写真はイメージです(metamorworks / PIXTA)

職場の「働かないおじさん」が再生するための方法 青山学院大・山本寛教授に聞く

勤続年数が長いため、給料も社内の地位も高いけれど、それに見合った働きをしているとは思えない「働かないおじさん」が周囲にいないだろうか。

新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった「日本型雇用」の限界を象徴するかのような存在だが、徐々に彼らへの包囲網は強まっている。

経団連の中西宏明会長は、2019年5月の記者会見で、日本型雇用について、「制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている」と厳しい認識を示している。

また、職務内容に応じた賃金を払う「ジョブ型雇用」の導入が進められており、成功するかどうかはともかく、成果主義的な運用をしようという動きもみられる。

「働かないおじさん」を生み出さないために、企業はどうすればいいのか。組織でのキャリア形成に詳しい青山学院大学経営学部の山本寛教授に聞いた。(新志有裕、武藤祐佳)

画像タイトル 青山学院大学の山本寛教授

●働かなくなってしまった理由

ーー「働かないおじさん」とは、どのような人のことなのでしょうか。

よく「妖精さん」とも呼ばれていますね。ジョブ型雇用への変化の過渡期で、まだ自分たちは自分の専門性を持って仕事をしなくても、これまでのやり方で逃げ切れるだろうと考えている人たちです。企業のマネジメントサイドも、まだそういう働き方でぎりぎりOKと考えていて、どんどん時代の流れに取り残されているので、いろいろな言い方をされているということかなと思います。

ーーなぜ働かなくなってしまったのでしょうか。

もちろん、そういう方々も最初から働かなかったわけではありません。長く同じ企業に勤めていると、異動や研修、評価といったいろいろな刺激がありますが、そうした変化を受けにくくなってくるということではないでしょうか。

また、玉突き人事など、組織の都合による無秩序なジョブローテーションでスキルが蓄積されず拡散してしまい、専門性が育たなかったことも理由の一つでしょう。そのようなキャリア形成に配慮していないジョブローテーションとは違い、CDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)という、計画的に様々な分野を経験してもらって人材育成をするというプログラムもあります。

しかし、最近はCDPを取り入れる企業が減ってきています。人手不足でなかなか人を採用できないことと転職の増加で、採用時点の方針で、3年ずつ3つの部署を経験させようというような計画が機能しなくなっているんです。

●50代の「働かないおじさん」が変わるための3つの方法

ーー「働かないおじさん」と聞くと、50代後半のバブル期に働き始めた世代をイメージするのですが、どうしてその世代に多いのでしょうか。

バブル期の世代や団塊ジュニアの世代はボリュームが比較的大きく、昇進ポストが少なかったので昇進できないという状況でした。2021年4月からは、企業による70歳までの就業機会確保が努力義務化されます。

そうすると、「働かないおじさん」も会社にいる期間が今よりさらにのびる可能性が高くなるので、企業もボリュームゾーンのこの世代の人にそれなりに働いてもらわないと困ると思うんですね。それまでに、社員活用のための専任組織やプロジェクトを作って対応すべきだと思います。

ーー年齢層によって、「働かないおじさん」への対応は異なるのでしょうか。

そうですね。50代以降の人たちであれば、3つの方法があると思います。

1つ目が、後進の指導役を割り当てるということです。例えば、社内の研修講師役など、仕事の勘やコツを伝える部分で活躍してもらうことが考えられます。

2つ目は、組織横断的なプロジェクトのチームリーダーに任命することです。これまであまり昇進せず、リーダーシップを発揮する機会がなかった人に活躍してもらう方法です。

3つ目は、60代以降に勤めてもらう部署に異動して、そこでスキルを積んでもらうということです。それまで管理職でITスキルをそれほど必要としなかった人が、役職定年などで離れてしまうと仕事ができなくなってしまう現象への対処法になります。そういう人たちには、「第二の新人研修」として、今の会社で若い人が皆普通に持っているようなITスキルを身に付けてもらうことが有効です。

●40代や30代はどんな経験を積むべきか

ーー40代や30代の人が、今後働かないおじさんにならないために、企業はどんな対応策をとるべきでしょうか。

40代はまだいろいろな新しい刺激を受け入れられる人が多いと思います。別の業種で全く別の仕事をする異業種交流研修で、異なった視点を思い切り経験してもらうことが良いでしょう。このような研修は、本当に若い人が行くとただ使われるだけで終わってしまいますが、40代でマネジメント経験やリーダー経験のある人が行けばそれなりのことができます。

そして、40代でも磨いた専門性を基に転職することもあり得ます。最近までは、大企業から中堅中小企業に転職する場合にはマネジメント経験を持った人が求められていましたが、今はその年代でも専門性がより重視されるようになってきています。

また、30代の中堅社員は自分の仕事しかしない状況に陥りがちですが、後輩の指導育成や若手と管理職をつなぐ役割、チームワークなどさまざまな能力を集中的に身に付けてもらう必要があると思います。

●「働かないおじさん」は雇用システムの犠牲者なのか

ーー今後、ジョブ型雇用が進み、専門性が重視されるようになると、働かないおじさんは減るのでしょうか。

そうですね。今の「働かないおじさん」たちはスキルや専門性が求められない時代に入社していますから、会社の言う通りに異動や転勤をしてきてスキルが蓄積されず拡散してしまっています。ですから、専門性のない「働かないおじさん」になってしまっているのは、ある意味仕方ない部分はあると思います。

ーー「働かないおじさん」については、彼ら自身もある意味犠牲者なのではないかという議論があります。会社のやり方に問題があったということなのでしょうか。

そうだと思います。ジョブ型への移行を見据えているのであれば、「今後は大学時代の専門から初期キャリアの研修や自己啓発を含め、一本筋の通った高い専門性を持った人を求めます」ということを早く採用や研修の中で明示していく必要があります。中途半端な状態は最も望ましくないので、今から強く言い続けないといけません。ジョブ型雇用は入り口から、職種別採用でやるべきです。

一方で、営業でも経理でも法務でも、それだけで完結して利益が上がるという企業はそれほどありません。そのため、あまりにも専門分野にクローズしてしまってそこだけをやり続けるというのは長期的に見ると疑問です。

高度専門職は弁護士や公認会計士を雇うことでアウトソーシングすればいいので、一から雇う正社員に必要な専門性は何か、ということは社内で議論すべきですね。すべてジョブ型雇用に移行するのは逆に硬直化を招く面もあると思います。

●働き方改革は、自分を見つめ直すチャンス

ーーすでに「働かないおじさん」になってしまったという自覚のある人は、どうすればいいのでしょうか。

「働かないおじさん」の立場に立って考えると、若いころは年功制で「若いころに一生懸命働けば、将来は高い賃金をもらえる」という環境にいて、今になって非常にマイナスなことを言われているんですね。今はイノベーションが昔よりもはるかに激しくて、仕事の内容はころころ変わるし、組織もどんどん変わります。

「働かないおじさん」になってしまった人は、今は時間ができて自分を見つめ直すいいチャンスだと思って、自己改革を図ってもらいたいと思います。働き方改革で残業をそれほどしなくていいのであれば、副業もできるし、ボランティアから始めてもいいと思うんですよね。「働かないおじさん」こそ、自分に投資をさらにしてもらいたい、そういう時代だと思います。

そして、周囲が「働かないおじさん」だとレッテル張りをしないで個別に柔軟に評価することも大事ですね。コピー用紙が切れていて補充したら、それを例えば他の社員がほめてくれたとかそういうようなことでもいいと思うんですよ。そういう風に個人として見て、評価する部分があったら声をかけて評価してあげるというのは、まず日常の仕事で元気になる一つの処方箋かなと思います。

働かないおじさんについての体験談を募集しています。ご本人も周りの方もぜひ情報をお寄せください。

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