「たった3分遅刻しただけなのに、社長がものすごい剣幕で怒ったんです・・・」。このように語るのは、かつて東京都内の小さな不動産会社で営業を担当していたA子さんだ。
ある朝、A子さんが寝坊して、始業時刻から約3分遅れて出社したところ、時間にうるさい社長が激怒した。顔を真っ赤にしながら、「俺は時間を守らない奴が一番嫌いなんだよ!」「お前、今度遅刻したら給料払わねぇからな!」と厳しい言葉をぶつけてきた。
あまりの剣幕に、A子さんは「はい」とうなずいてしまった。その後、遅刻をしないよう細心の注意を払ったため、A子さんは在職中、二度と遅刻することはなかったという。現在、A子さんは別の会社で働いているが、「あのとき、もしもまた遅刻をしていたら、本当に給料ナシだったかも・・・」と振り返る。
もし仮に、社長が遅刻を理由として、A子さんに給料を支払わなかった場合、法的に問題があるのだろうか。「給料ナシ」とまでいかなくとも、減給した場合も問題あるのだろうか。労働問題にくわしい靱純也弁護士に聞いた。
●遅刻分の賃金が引かれることは問題ないが・・・
「賃金は労働の対価なので、遅刻時間分の賃金が引かれることは、原則として問題ありません。
しかし、遅刻分を超えた賃金カットは、労働法上問題を生じることがあります」
靱弁護士はこう切り出した。どのような問題があるのだろうか。
「遅刻分を超えた賃金カットは、懲戒の一種である『減給』にあたります。このため、懲戒事由と処分内容が、あらかじめ就業規則に規定されている必要があります。
また、1回の減給額は平均賃金の1日分の半分以下で、総額も給与計算期間内の賃金総額の10分の1以下でなければなりません(労働基準法91条)。
ですから、『遅刻したら丸1日分の給与を支払わない』という処分は、そもそもできません」
そのような処分が法律の範囲内で、就業規則にも規定されていた場合、どうだろうか。
「たとえそうであったとしても、懲戒事由の内容などからみて、その処分が客観的に合理性を欠き、社会通念上不相当とされる場合は無効です(労働契約法15条)。最低限、本人に弁明の機会を与えることが必要です。
A子さんのケースでは、減給額が法律の範囲内で就業規則に規定があったとしても、わずかな遅刻に対して遅刻分を超えた減給することは過大な処分と考えられます。適正な手続きもとられていないようですので、原則として処分は無効になると思います。
なお、これとは別に、具体的な状況によっては社長のパワハラとなる可能性も考えられなくはありません」
靱弁護士はこのように述べていた。