10月1日。街にはスーツ姿の大学生があふれた。来春入社予定の学生たちの「内定式」が多くの企業で開かれたためだ。内定式にのぞんだ学生は、半年後の社会人生活を思い描きながら、気持ちを新たにしていたことだろう。
だが、なんらかの事情で、内定式後に内定を辞退する学生もいる。なかには、複数の会社から内定をもらっていて、最終的に一社を選ぶ者もいるだろうし、大学院進学や留学など就職以外の道に進む者もいるだろう。
このような「内定辞退」は、せっかく採用を決めた企業にとってはありがたくないことのはずだ。もし会社が学生に対して、損害賠償を請求したとしたら、認められるのだろうか。労働問題にくわしい秋山直人弁護士に聞いた。
●会社側の恣意的な理由で、内定を取り消すことはできない
――そもそも、「内定」とは法律的には、どういう意味をもつのか?
「会社が学生に対して、採用内定通知書などで正式な『内定』を出す場合、会社と学生の間でどのような法律関係が発生するのかというと、最高裁の判例によれば、『始期付き解約権留保付きの労働契約』であるとされています」
――「始期付き解約権留保付きの労働契約」とは?
「簡単にいうと、入社日(たとえば4月1日)から働くという『期限』が付いていて、かつ、従業員として不適格であることが入社日前に分かった場合には、会社の側から『解約権』を行使して内定を取り消すことがありうると『留保』している労働契約、ということです」
――どんな場合に、会社は「解約権」を行使できる?
「その点については、『解約権を留保した趣旨・目的に照らし、客観的に合理的で、社会通念上相当として是認できる理由があるとき』と解釈されています。すなわち、会社側の恣意的な理由で内定を取り消すことはできないと考えられています」
――では、逆に、学生から内定を「辞退」する場合は、どう考えたらいい?
「内定関係は、期限や留保が付いているものの、労働契約であることには変わりがありません。そして、新卒の学生が正社員になるという場合は、『契約期間の定めのない労働契約』であることが通常です。
そして、契約期間の定めのない労働契約においては、労働者は2週間の予告期間を置けば、特段の理由を必要とせずに労働契約を一方的に解約できるとされています(民法627条1項)。
したがって、内定関係の場合でも、学生は、2週間の予告期間を置いたうえで内定辞退をすれば、有効に労働契約を解約できます。この場合、会社に対する損害賠償の義務は生じません」
つまり、内定式後に、学生が内定を辞退したとしても、会社は損害賠償を請求できないというわけだ。法的には、学生は自由に内定辞退ができるということになるが、もし仮に辞退することになったら、きちんと礼を尽くして説明したほうがいいだろう。