犯罪や迷惑行為が疑われた時、加害者の顔が映った動画や写真をSNSで公開するケースが相次いでいます。
東京メトロの麻布十番駅のエスカレーターで女性のスカートの中を盗撮した疑いがあるとして、女性が4月下旬、Xで男性の写真を投稿しました。女性は、たまたま男性のスマホが太ももに当たって盗撮に気づき、男性に伝えたところ、男性は逃げていったといいます。
女性は「泣き寝入りはしたくないので拡散お願いします」として男性の写真を投稿、その後、この写真をみた男性の上司が男性を問い詰め、男性は警察署に出頭したとのことです。
同様のケースで被害をうったえる人たちは、「泣き寝入り」や「被害の拡大」を防ぐために投稿することが多いものの、一方で、法的なリスクも生じてしまいます。一体、どのようなものなのでしょうか。どうしても投稿したい場合に注意すべき点はあるのでしょうか。河西邦剛弁護士が解説します。
●盗撮は犯罪行為だけど…
盗撮被害のケースでは、顔写真の投稿をきっかけに男性は警察に出頭しており、Xの投稿がなければ男の出頭につながらなかった可能性はあります。また、警察に通報していたとしても警察が特定できるとも限らず、SNSが特定の手段として機能しているのは事実でしょう。
また、今回のケースでは男性は盗撮を認めているということです。一般的に盗撮行為は性的姿態等撮影罪に該当し、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金刑に該当する犯罪行為です。
しかし、犯罪や迷惑行為が疑われる人の写真や動画をSNSで公開する行為は、逆に投稿した側が名誉毀損として民事や刑事の責任追及を受ける可能性があり、法的なリスクを伴います。民事上ではプライバシー権を侵害したとして損害賠償の可能性もあります。
今回のケースでは、男本人も盗撮を認めており投稿内容が「真実」と言えそうです。名誉毀損との関係では「公共性」が認められ、「公益目的」があれば責任を負うことはありません。
公共性については犯罪に該当する内容であり認められる可能性が高いでしょう。また公益目的か否かについては「泣き寝入りはしたくないので拡散お願いします」という投稿ですが、被害の拡大防止も含んだ投稿と解釈すれば公益目的とも言えそうです。
●犯罪行為かどうかの線引きは困難
しかし、 実際には、犯罪行為か否かの線引きは難しいケースがあり、仮に犯罪に該当するとは言えないケースをSNSに投稿したとすると、名誉毀損やプライバシー権侵害として法的責任を追及される可能性は高まることになります。
犯罪に該当しないからといって直ちに違法な投稿になるわけではありませんが、この場合には少なくとも顔はモザイクを入れるなどの処理で隠した方が無難です。
また、数は少ないですが私の経験則だと盗撮容疑も100件のうち1〜2件くらいは冤罪事件もあります。その態勢から盗撮の疑いをもたれていたものの、実際は盗撮しておらず、警察がスマホやPCを復元しても盗撮に該当するデータは復元されなかったというケースもありました。
このようなケースでは、疑われるような姿勢であった責任はありますが、実際に冤罪であれば名誉回復の必要性も出て来るでしょうし、投稿者に名誉毀損の責任追及をするケースもあり得るでしょう。
●どうしても投稿したい場合はモザイク加工を
ではどうしても投稿したい場合に、なるべくリスクを下げるためにはどうすればよいのでしょうか?
まず、テレビや新聞は逮捕報道の際に容疑者の映像や画像を使用していますが、あくまで警察発表を根拠に、「容疑者が逮捕された」という事実を報道していることになります。また、中立性を根拠に、容疑者が「罪を認めている/認めていない」などの本人の言い分(認否)も必ず同時に報道します。
テレビや新聞は、あくまで「盗撮容疑で逮捕されました」という事実レベルで報道しており、「盗撮の犯人です」と自ら犯罪行為と断定する表現(テロップやナレーション)を使用することは絶対にありません。
これらを参考に投稿するのであれば次のような点に注意したいです。
・犯罪行為に該当する場合でも、モザイク加工し顔や名前がすぐには特定されないようにし自らの出頭を促す ・犯罪行為についても怪しいというだけでの顔出し投稿は極力避ける ・写真や映像とともに「この人は盗撮犯です」というような、犯罪者と断定するような文言で投稿することはよほどの確証がなければ避け、「スマートフォンを向けられていました」など動画から認定できる事実レベルの文章を使う
SNSに投稿することで犯人が特定されるケースがあるのは事実ですが、犯罪被害や迷惑行為を受けた側が逆に法的リスクを負うことはあってはならないことです。SNSへの投稿ではなく、なるべく警察の捜査に任せ、被害を受けた側がなるべくリスクを負わないことが大切かと思います。