女性初の裁判官・三淵嘉子さんがモデルとなったNHK連続テレビ小説「虎に翼」の放送が始まり、1カ月がたちました。X上でも毎日、その日にスポットが当たった役名が話題になるなど、弁護士アカウントを中心に法曹界で注目が広がっています。
弁護士ドットコムでは、会員弁護士にドラマ「虎に翼」の視聴動向や感想などを尋ねるアンケートを実施し、400人(男性258名、女性141名、その他1名)から回答を得ました(実施時期:2024年4月21日ー4月25日)。
その結果、ドラマを見た女性弁護士の8割超が内容に共感できると回答し、「多様な女学生像や、主婦となった女性の立場や声も表現し、女性全体の状況を多角的に表現している」「先駆者の女性のおかげで現在があることを実感」という意見もありました。
また、法曹界の性別による格差(ジェンダーギャップ)について問うと、8割近くの女性弁護士が「よくある」「ときどきある」と答え、ドラマの時代から100年近くたった現在も、旧態依然とした現実もあることが浮き彫りになりました。
●半数超の弁護士が「一度は見た」
ドラマ「虎に翼」を視聴したことがあるかを尋ねたところ、「毎日見ている」「週末まとめて見ている」「たまに見ている」「何度か見て今は見ていない」「一度だけ見て今は見ていない」を合わせると、51.3%という結果になりました。
男女別では、「毎日見ている」「週末まとめて見ている」「たまに見ている」「何度か見て今は見ていない」「一度だけ見て今は見ていない」を合わせると、男性は46.1% 女性は61.0%。
さらに、見ている人のうち「毎日見ている」「週末まとめて見ている」と回答した、これまでほぼ全話を網羅しているのは女性が46.1%、男性が29.1%。女性の方が熱心に視聴しているようです。
●弁護士の8割が「共感できる」
ドラマの内容について共感できるかを尋ねたところ、「できる」が49.3%、「どちらかといえばできる」が30.7%と、8割が共感していました。
男女別では、「共感できる」は、男性が40.3%に対して女性が61.6%と約1.5倍。「どちらかといえば共感できる」も含めると、男性は76.5%、女性は84.9%。
女性からは「法曹も女性差別はまだ根強いので、当時の苦労が想像できる」「先駆者の女性のおかげで現在がある」などの意見があり、主人公がおかれた状況や抱える悩みを自分自身に重ね合わせているようです。
⚫️男性も注目、歴史や建造物に関心
一方、男性からも「女性が社会進出しようとしている有り様が現在とあまり変わらない。マイノリティの立場に立った男性にも通じること」「法曹全体の特権意識が強いことに疑問を投げかけている点」に着目しているという意見がありました。
また、楽しみにしていることとして、「名古屋市政資料館(旧名古屋の裁判所)でのロケの映像」「明治大の同窓生として過去の様子」などを挙げている人もおり、司法の歴史やロケ地に注目している様子がうかがえます。
⚫️「普遍的で胸にしみる」「法律を勉強し始めた頃のワクワク感を思い出した」
自由回答で、ドラマに共感できる、楽しみにしている部分を聞きました。以下のようなものです。
「現代でも続いている女性蔑視の社会構造への疑問を正面から問うているところ」(女性) 「寅子の台詞がいいですね、時代が違っても普遍的で胸にしみます」(女性) 「男性優位で、女性というだけで下に見られてる部分に共感した」(女性) 「『頭のいい女が確実に幸せになるには頭の悪い振りをするしかない』という言葉が、100年後においても古びていないことに衝撃を受けつつ、共感しました」(女性) 「世の中の壁に闘っている部分について共感できる」(男性) 「差別への抵抗に共感した。異なる意見に対する寅子の言動に注目している」(男性) 「今でも問題ある男女差別を時代が古いことで分かりやすく提示されていて、でも実は今も変わってないね、となることを主人公がうまく指摘している気がする」(男性) 「理不尽な女性差別を『差別』と認識し抗っていくところ、そもそもの構造的な理不尽をそのままにしないところ、現代にも共通する部分が残念ながら多くあり、寅子の勇気に励まされ、元気づけられる。同じ文脈において自分たちも頑張って行かなければと」(女性) 「困難な時代の中で、道を切り開いた先駆者の女性のおかげで現在があることを実感し、とても励まされています。また、当時よりは良くなったとはいえ、未だ日本社会に根深くジェンダー格差や女性の貧困問題が残っていることも感じています」(女性) 「婚姻女性の財産管理能力無しとされた理由が女性を保護するためというのに衝撃を受けた。昔の人間は、こんな異常な考え方をしていたんだと驚いた。主人公が男女平等の現行憲法を見て感動する様を楽しみにしてます」(女性) 「女性というだけで、できることが制限されていた状況の描写は毎回うなずけるし、立ち向かう姿には勇気づけられる。あの時代にどのように切り込んでいくのかが楽しみである」(女性) 「戦前の時代が舞台ではあるものの、現在の女性の地位が隠れたテーマになっていると思われ、いろいろと考えさせられます」(男性) 「法律を勉強し始めた頃のワクワク感を思い出した。女性法曹にもっと頑張ってほしいと思っているので、どんな展開になるのか期待して見ていきたい」(男性) 「昨今では性の平等という意識がかなり強く世界的にも浸透し始めているが、ドラマで描かれている時代は現代とは比べ物にならないほどの偏見や差別に満ちていた。そのような中で法曹界に飛び込むことは並大抵のことではない。時代背景をどのように描くのか法曹関係者ならずとも注目せざるを得ない」(男性)
⚫️法曹界で性別による格差を実感しているのは約6割
法曹界で性別による格差(ジェンダーギャップ)を感じることはあるかを尋ねたところ、「よくある」が18.8%、「ときどきある」が38.0%と約6割が格差を実感していることがわかりました。一方、「あまりない」「全くない」は29.3%と3割未満にとどまりました。
男女別で見ると、「よくある」「ときどきある」と回答した男性45.4%に対し、女性が78.0%と約1.7倍に上りました。女性の意見からは「男性高齢弁護士から『女は怒るべきではない』と言われた」「飲み会の際、何気なくお酌担当にされる」など旧態依然とした実情も見えてきます。
一方で、男性からは「社外取締役の需要が増えており、女性だから採用される場面も多い」「(司法試験の合格者比率は7:3なのに)検察官の説明会で50%女性登用を目指すと聞き、機会の平等という意識の欠如にドン引きした」など、女性登用推進の動きが過度だと感じている意見もありました。
⚫️ 格差を感じるのは、依頼者との関係性や育児・介護などの生活面
ジェンダーギャップを感じる人に、実際に格差を感じる場面を尋ねたところ、「依頼者との関係」が61.7%と最も多く、女性弁護士と男性弁護士で依頼者の態度が違うなど、一般の人からはいまだ弁護士=男性と捉えられている実態が見えてきます。
次いで、「生活面(育児・介護など)や体力面に関すること」が59.5%、「採用・就職時の扱い」が40.1%、「弁護団や弁護士仲間など同業者との関係」が33.0%などとなりました。
「依頼者は男性の方が威厳があるように捉える」 「産後の復帰予定を伝えたら男性弁護士から『0歳から保育園に入れるなんて可哀そうだね』と言われた」「『女性は出産や育児で辞めるから採用したくない』と何度も言われた」「働きながら育児は難しい。解雇された友人もいた」など複数の女性弁護士の経験談からは、悔しい思いが浮かんできます。
男女別で最も差が大きかったのは、「弁護団や弁護士仲間など同業者との関係」。男性が21.4%に対して女性が45.5%と24.1ポイントの開きがありました。次いで、差が大きかったのは、「報酬・給与面に関すること」。男性が11.1%に対して、女性が32.7%で、こちらも21.6ポイントの差が見えました。
女性からは「子どもの急病により委員から外された」「(報酬の高い)企業との顧問契約が結びにくい」「若いと中小企業の代表者からからナメられる」などの声が複数あがっています。一方で、男性からは弁護士同士の話や報酬について、ジェンダーギャップを理由にした不満の声は少なく、男女で認識の差があるようです。
男女差が大きくなかったものとして、採用については、男性からもギャップによる不利益を訴える声がありました。特に「検察官採用は明らかに女性が優遇されていた」「クオーター制度として女性会員を役職に就ける」などで、女性登用が数字ありきになっているとして、抵抗感を示す声も上がっています。
⚫️ 「女性の意見が必要と委員会に引っ張られる」「この女弁護士が!と言われた」
自由回答で、ジェンダーギャップを感じた具体的な場面について聞きました。以下のようなものです。
「依頼者や相手方から若い女の子なのに偉いねと言われる(1年目)、弁護士の先輩からいくつ?彼氏いる?などと聞かれる」(女性) 「男性依頼者がストーカー化しないよう無駄に気を遣う、女性の意見が必要などと委員会に引っ張りこまれる、など、いっぱいあります」(女性) 「女性だからこそ需要のある部分ももちろんあると思いますが、依頼者の方によって、女性を軽く見ているのかなという言動がみられることはよくあります」(女性) 「同様の実績がある男性弁護士と比較して、顧問契約の獲得までのハードルが高いと感じています。社外役員の選考では女性であることが有利に扱われていると感じますが、反面、女性であること以外に期待されていないような虚しさもあります」(女性) 「女性裁判官だからハズレた、女性には大局観がないなどの発言を常に聞く」(女性) 「裁判官に任官したが、その際、男性と同じ成績だったら間違いなく男性をとる、と明確に民裁教官に言われた。弁護士になって、相手方の代理人であるベテラン弁護士(男性)から『この女弁護士が!』と言われた」(女性) 「常日頃から上司が会議で『女性弁護士は力仕事(破産管財人を含む荒っぽい交渉)ではなく、銃後の守りをすべきだ』と繰り返していました」(女性)