死んだときに「消費税」を取られる!? 6月上旬、首相官邸で開かれた「社会保障制度改革国民会議」で、東大の伊藤元重教授が「死亡消費税」というギョッとするネーミングの新税を提案した。
議事録によると、伊藤教授が提案した「死亡消費税」は、死亡時点で残った遺産に一定の税率をかけて徴収する税だ。上位4%程度の資産家にしかかからない相続税と違い、すべての死者の財産に同じ税率で税金をかけ、財源の穴埋めをしようという構想だ。
伊藤教授は「60歳で定年されて85歳で亡くなった間に一生懸命消費して日本の景気に貢献してくださった方は、消費税を払ってお亡くなりになる。60〜85歳の間、消費を抑え、お金をお使いにならないでため込んだ方は消費税を払わないでお亡くなりになる」と指摘。「消費していれば払ったはずの消費税を払っていただく」という意味で「消費税」だとしているが・・・・。
もし、この「死亡消費税」が導入されたらどんなことが起きるのか。大和弘幸弁護士に聞いた。
●提言通りの制度設計は困難だ
「伊藤教授の『死亡消費税』は、マクロ経済の視点から、新たな医療財源を確保するための一提言にとどまっていると思います。理論的整理や他の税制との調整など、議論が詰められているわけではありません。
ですから、今の時点で『死亡消費税が導入されたら?』という問いに正確に答えることは困難です」
——それではコンセプトとしてはどうか。高齢者自身の消費を促す効果はあるのでは?
「仮に『死亡消費税』が導入された場合、『死亡消費税をとられるくらいなら、生前にもっと消費しよう』と考える高齢者が増え、消費税収も上がり、景気対策にもなる、という考え方もあり得ます。
しかし、そのためには、個人が生前、実質的に負担した消費税相当額が一定額を超える場合に、『死亡消費税』が減免されるという枠組みが必要と思われます。だが、制度設計は困難でしょう」
——生前贈与をするケースが増えるのでは?
「確かに、『死亡消費税』をとられるくらいなら、資産を子や孫に贈与しようと考える人も増えるかもしれません。
しかし、その場合でも、適用される『死亡消費税』や贈与税の税率、贈与税の基礎控除額、あるいは今話題の教育資金一括贈与非課税制度の適用などによって、人々の行動は左右されるでしょう。
さらに、『死亡消費税』の対象とされる『死亡時の遺産』が何を指すのかによっても、事情は変わってくるでしょう。不動産だけなのか、預貯金や現金も含まれるのか、当局はどうやってそれを捕捉するのかなど、問題点は多そうです」
●高齢者負担をどうするかは、社会保障改革の議論で避けては通れないポイント
——それでは「死亡消費税」が実現する可能性は低い?
「伊藤教授も、将来のどこかの時点できちっと検討が必要となる『大胆な改革』の一例として、『死亡消費税』を挙げており、直ちに導入されるべきと提言されているわけではないようです」
——結局、「死亡消費税」について、国民はどう考えれば良い?
「『死亡消費税』そのものよりも、それが提案された背後にある考えに着目すべきでしょう。それは、増える社会保障費用について、若い世代だけではなく、高齢者本人も負担増を甘受すべきだという考え方です。今後、社会保障改革を考えるにあたって、これは避けて通ることのできない論点でしょう」