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20万ケチって自力で相続手続き、ハマった「めんどくさ地獄」の底なし沼
画像はイメージです(78create / PIXTA)

20万ケチって自力で相続手続き、ハマった「めんどくさ地獄」の底なし沼

去年の7月に父が亡くなった。2月に自宅で倒れて救急搬送され、5カ月近く闘病し一進一退を繰り返したが、ある日突然容体が悪化し旅立った。コロナ禍で面会もあまりかなわず、会いに行きやすい介護付き老人ホームをようやく見つけ、契約してさあ入所だ!という矢先だった。

ということで、私たち家族には、突然いろいろな「手続きの嵐」が襲いかかった。最初の3カ月くらいは葬儀や納骨関係のほか、実家の保険、年金、電気、ガス、水道、インターネット、クレジットカードなどなど、父から母への名義変更手続きに日々明け暮れた。

そして、その一連がやっと終わったと思ったのも束の間、相続関連の「めんどくさ地獄の底なし沼」がやってきたのだ。(テレビプロデューサー・鎮目博道)

●分配はすんなり決まったが…

思えば、「めんどくさ地獄」の始まりは「相続の手続きをすべて自分でできるのではないか」と思ったことがきっかけだった。

その話を始める前に、まず我が家の基本的スペックを説明しておこう。父の「相続人」は母と私、そして弟の3人。私と弟はいずれも家庭を持ち、母とは別の場所に住んでいる。

相続の対象となる財産は大きく分けて3種類。ひとつは銀行の口座に残された父の預金、そしてもうひとつは千葉県にある実家の土地建物、そして最後は山梨県にあるらしい「よく分からない農地の数々」だ。

銀行口座に残された預金残高はほんのわずかで、これはすべて母が使えば良いということで母に、千葉県の実家は売却して代金を3等分して全員に、そして山梨県の農地は「なんとなくめんどくさそうなのでお前が相続しておけ」という母の一言で私が相続することとなった。

●「自分でできる」幸先良いスタートのつもりが…

さて、なぜ私が相続の手続きを自分でやろうと思ったか、である。実はこれは千葉県の実家を売るために相談した不動産業者に「売るにはまず相続登記をせねばならない」と言われたことだった。遺言のない我が家の場合、相続登記には遺産分割協議書が必要になるが、司法書士に依頼すると10万円ほどかかるそうだ。

「そんなにかかるのか、高いな」と思った私は早速インターネットで調べてみた。するといくらでも文例が載っているではないか。不動産業者は「これまでにご自身で書かれたお客様はいません」と言うが、元銀行員の親戚からは「いや、遺産分割協議書くらい自分で書けばそれでいいし、うちも自分で書いたよ」との答えが返ってきた。

不動産業者に「自分で書く」と伝えると、「うちでも可能な限りのお手伝いはします」との答えが返ってきたので、ネットで見つけた文例に自分達の住所や氏名などを当てはめて記入。土地や建物の情報などは分からなかったので空欄のまま「こんな感じで良いのですかね」と不動産業者にメールで添付して送ってみた。

すると「おおむね結構だと思います」との答えとともに、土地の地番や地目などの欄に不動産業者側で記入してくれた遺産分割協議書を添付して返送してくれた。

のちに、法務局で登記事項証明書(いわゆる謄本)をとれば自分でも調べられることが分かるのだが、不動産業者に任せてしまったことで、面倒臭い事態に巻き込まれることになるとは、この時点ではまだ知る由もなかった…。

●「相続登記も自分でできるんじゃ?」

さて、これで遺産分割協議書はできた。これを元に司法書士に相続登記の手続きを依頼すれば、だいたい10万円も払うとすべて終了するはずだ。しかし、私はふと考えた。どっちにしろ必要書類は自分で集めるのだろうし、ここまできたら自分で登記すべてやってしまえばいいじゃないか。

遺産分割協議書に母と弟の署名と実印を押してもらい、完成。あとはこれに必要書類をつけて、登記申請書に記入して収入印紙を貼って法務局に提出すれば相続登記をすることができる。

しかし、何せ「必要書類に何があるのか」も「登記申請書に何を記入すればいいのか」も「収入印紙はいくら分貼れば良いのか」も分からない。

「きっと誰かが必ずインターネットで説明してくれているはずだ」ということで、いくつものサイトで「似たようなケース」を探した。

まず必要書類にはさまざまな戸籍謄本や、印鑑証明書、固定資産課税明細書などがあると知る。そしてそれを各地の役所に行って入手する。特に父の出生から死亡までの戸籍は、入手するのに時間がかかった。

そして、登記申請書の書き方。これも法務省の解説ページやらを見て、なんとかクリア。この書き方を調べているうちに、「提出した書類のうち戸籍謄本や印鑑証明書などは返却してくれるらしい」ということも学ぶ。

そして、何より面倒臭かったのが、「収入印紙の額はいくらか?」問題だ。登記の時にかかる「登録免許税」は申請者が自分で計算してその額の印紙を購入して貼り付けなければならない。間違ったら大変だから、いろいろなサイトで調べてなんとか「この額だろう」という額を出す。不動産の課税価格に税率をかけて計算するのだということを知る。

さあ、いよいよ登記関係書類の提出準備完了。実家も片付けに行くし、法務局の支局も住所を見る限り近そうだと思ったので書類を持って法務局へ。そしたらなんとこれがやたらと不便な場所にあり、最寄駅から歩いて楽勝で30分。バスも1時間に一本くらいしか走っていないしタクシーも通りがかりそうにもない不便な場所で驚いた。

法務局はどうやらあまり利便性を考えない場所にある場合もありそうなので、ご注意を。

●不動産屋のミスでやり直し

さて、とりあえずこれで一件落着、あとは登記完了予定日(法務局に掲示してあるし、サイトにも書かれている)までに何か電話がかかってきて修正を命じられなければ、無事終了だ…と思ったらなんと数日経って法務局から電話がかかってきた。

「建物の家屋番号が違う」という。千葉の土地は地番が「122番3」で、その上の建物の家屋番号は「122番の1」なのだが、遺産分割協議書も申請書も家屋番号「122番3」となっていてそれは他人が所有する建物なのだという。

「申し訳ないのですが、きっと地番を間違えて家屋番号にも書いてしまったのでしょう。でも、これだと残念ながら建物については登記をできませんので、土地だけ登記を進めますか?それとも一旦全て取り下げてもらって、遺産分割協議書と申請書を書き直してもらって再度提出しますか?」と電話で聞かれる。

まあ、ここだけの話「地番も家屋番号も不動産業者さんが遺産分割協議書に書いてくれたもの」だし、申請書もそれをコピペしただけなので、「間違えたのは俺じゃない」と言いたいところだし不動産業者さんに一言文句も言いたいところだがそれを言っても始まらない。

仕方がないので取り下げることにしたが、その取り下げ書類を郵送で送ってもらうために切手を貼った封筒を法務局宛に送ってほぼ1週間待つことに。

遺産分割協議書を修正し、それに再び弟と母の署名・捺印をもらって申請書も書き直し、印紙は「再使用可能な手続き」がされていたのでそれをもう一回つけて今度は郵送で提出。そこからさらに1週間以上経ってようやく登記が完了。法務局に「登記識別情報」をもらいに行って、提出した謄本と印鑑証明を返してもらい、ようやく手続きが終わった。

不動産屋のミスで随分遠回りをすることになったのであった。自分でやると決めたら、絶対に人に頼らない(特に不動産業者には)、あくまで自力でやり遂げることが大切だと身に沁みた。

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