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「ドン・ファン」全財産を田辺市に寄付と遺言、22歳妻がもらえる遺産と相続税は?
(弁護士ドットコムニュース)

「ドン・ファン」全財産を田辺市に寄付と遺言、22歳妻がもらえる遺産と相続税は?

「紀州のドン・ファン」こと野崎幸助さんの死亡事件をめぐり、野崎さんが5年前に書いた遺言状で、全財産を居住地の和歌山県田辺市に寄付すると明記していたとの情報が週刊文春で報道された。

週刊文春によると、直筆の文面で、自身と会社の全財産を故郷の田辺市に寄付すると明記されていたという。遺言状は署名と捺印もあり、首都圏の関係先に託されていたという。

野崎さんは今年、22歳の妻と再婚しており、妻は請求すれば遺留分を受け取ることができる。各種報道によると、野崎さんの遺産は10億円という情報から、50億円との情報まであり、定かではない。

野崎さんには妻に加えて、兄弟姉妹もいるが、今回の遺言状が有効とされた場合、妻がどれくらいの遺産を手にすることができるのか。相続税はいくらになるのか。遺産が10億円だとして、相続問題に強い佐原三枝子税理士に試算を依頼した。

●妻は遺産の半分を無税で手に入れることに

「結論から先に申し上げますと、妻は遺産の半分を無税で手に入れることになります。ですので、遺言書が有効で、遺産が10億円とすると、妻はその半分の5億円を相続税の負担なく相続することが可能なのです。

野崎さんについては、個人的なキャラクターに加えて、亡くなり方や家族構成などを理由に様々な憶測が飛んでいます。まして高額の遺産となると、私たちには直接関係のない興味本位のお話になりがちですが、実は野崎さんの遺言書には皆さんに知っておいていただきたい深い含蓄があります」

●遺言を残しておけば、兄弟姉妹からの主張を退けることができる

ーー野崎さんには子どもはおらず、身近な親族は22歳の妻のみだった。ほかに、疎遠となっている兄弟姉妹が複数いたそうだが、兄弟姉妹も相続の対象となるのか。

「私のところでも、子どもはいないがお互いに兄弟姉妹は多いというご夫婦のご相談が最近とても多いです。この場合、『私が死んだら妻(夫)に』という遺言を残しておくようにお勧めしています。

子どもや親がいない方に相続が起きた場合、配偶者の法定相続割合は4分の3、兄弟姉妹は4分の1となっています。遺産がまさにご夫婦で形成した財産であれば、配偶者の兄弟姉妹に4分の1の相続分を主張されるのは心情的に納得がいきませんし、残された配偶者の生活を脅かすことにもなります」

ーー兄弟姉妹は「遺留分」を主張することはできないのか。

「遺留分というのは、遺言によって本来の法定相続割合を侵害された相続人が主張できる遺産の取得割合をいいます。たしかに、野崎さんの遺言では『遺産はすべて田辺市に』となっていますから、妻も兄弟姉妹も遺留分を侵害されています。

しかし、民法1028条には『兄弟姉妹以外の相続人は』遺留分を受けると規定されています。つまり、兄弟姉妹は遺留分を主張することはできないのです。

野崎さんは兄弟姉妹とは疎遠だったということですから、心情的に自分の遺産を相続させる気はなかったのでしょう」

●本来の法定相続分より少ないが、妻は毎月平均70万円を使うことができる

「野崎さんの場合でしたら、妻は遺産の2分の1を遺留分として主張できます。本来の法定相続割合4分の3からみれば少なくなりましたが、争いごとを避けるという意味では正解です。また、半分でも5億円あるのですから、22歳の妻が今後60年生きるとして、毎月平均70万円を使えるのですから、生活保障としても十分でしょう。

妻(夫)の場合、配偶者の税額軽減という相続税法上の制度があり、1億6千万円もしくは法定相続割合のいずれか大きい金額までは相続税が非課税となります。野崎さんの妻が遺留分として5億を主張すると仮定すると、1億6千万円を軽々と超えていますが、法定相続割合7億5千万円(10億の4分の3)には届かないので、この制度によって相続税は非課税となるのです。

野崎さんの妻は結婚して数カ月で未亡人となりましたが、この制度は、まず戸籍上の配偶者であることが条件ですので、婚姻期間は関係ありません。逆に、長年苦労を共にしていても事実婚では適用されないのです」

●国や地方公共団体に遺産を遺贈した場合、相続税が非課税に

ーー野崎さんはなぜ「田辺市に全額を遺贈する」という遺言を残したのか。

「国や地方公共団体に遺産を遺贈した場合、相続税が非課税となります。とはいえ、遺産の中に不動産があった場合、亡くなった人からその遺贈先の団体への譲渡とみなされ、亡くなった人に譲渡所得税がかかる可能性があります。相続税が非課税になっても、譲渡所得税が課税されては大変です。ただし、遺贈先が国や地方公共団体の場合は、この譲渡所得税も非課税となるのです。

野崎さんの中に、生まれ故郷への恩返しと、相続後の手続きや税金をシンプルにしておきたい、という思いがあったような気がしてなりません」

ーー身寄りがなく、野崎さんのように遺産を団体に遺贈したいと考えている場合、注意すべきことはなにか。

「たしかに、国や地方公共団体だけでなく、自分が支援する『よい活動をする団体』に遺贈したいというご要望は多いです。ところが、先方の団体に負担がかかったり、遺言を執行するのに譲渡所得税がかかったり、その団体への遺贈が相続税の非課税に該当しないと税務署から指摘を受けたりすると、良いことをしたつもりなのに遺志が反映されにくいこともあります。このような遺言を書かれる場合は、事前に専門家に相談されることをお勧めします」

●税理士からのアドバイス「法的に有効な遺言を元気なうちに」

「これまで解説してきたことは、野崎さんの遺言が有効であると認められてこそ可能となります。法的な要件を満たしていない、複数の遺言が出てきた、などということが起こると、スタートラインに戻って遺産分割協議を白紙からすることになります。

他の先進国に比べて、日本人は遺言書をあまり残したがらないと聞きます。遺言書と遺書を同一視しているようにも感じもしますが、これは間違いです。

遺言は先立つ者の責任です。遺産の多い少ないにかかわらず、法的に有効な遺言を元気なうちにきちんと作っておきましょう」

【取材協力税理士】

佐原 三枝子(さはら・みえこ)税理士・M&Aシニアスペシャリスト

兵庫県宝塚市で開業中。工学部やメーカー研究所勤務から会計の世界へ転向した異色の経歴を持つ。「中小企業の成長を一貫してサポートする」ことを事務所理念とし、税務にとどまらず、経営改善支援、事業承継や海外事業展開の支援を手掛けている。

事務所名 : 佐原税理士事務所

事務所URL:http://www.office-sahara1.jp/

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