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「喫煙者は一切採用しない」こんな企業の方針は「差別」にあたらないのか?
愛煙家には世知辛いご時世だ(EKAKI/PIXTA)

「喫煙者は一切採用しない」こんな企業の方針は「差別」にあたらないのか?

「今後、喫煙者は一切採用しないことを決めました」。プログラミングの教育事業を手がけるIT企業の社長が4月下旬、ツイッターにこのような内容を投稿して話題になった。ネット上では「差別にあたるのでは?」といった声もあがっているが、はたして法的に問題はないのだろうか。

●「喫煙者を採用しない」理由は3つ

話題になったのは、IT企業「div」の真子就有社長の投稿だ。彼のツイッターやブログによると、喫煙者を一切採用しない理由は、(1)健康のリスク、(2)生産性の低下、(3)周囲への悪影響の面で、「会社にとって良いことが何もない」と思ったからだという。

真子社長は、健康のリスクについて、喫煙者本人だけでなく、受動喫煙者の肺がんリスクも上がるからだとしたうえで、「本人の自由だからと放置せず、それが間違いなら勇気を持ってNOと伝えることが従業員に対する愛だと思う」とつづっている。

また、「実際に生産性が高いか低いかという議論以上に、非喫煙者から不満の声が上がることのほうが問題であり、生産性を落としていると考える」という。さらに、受動喫煙で他人の健康を害することや、洋服・口が臭く仲間やお客の気分を害することなどを「周囲への悪影響」としてあげている。

さらにブログ上で、「私としては健康かつ生産的に働ける人が増えて欲しいと思った」「他の企業の社長からも『うちも不採用にします!』とメッセージをもらえたので何かしら良い影響を与えられたんじゃないかと思っている」と述べている。

●原則、すでに働いている従業員に「不利益な措置」をとることは許されない

社会的にタバコに対する考え方が変わってきており、愛煙家には世知辛いご時世だが、はたして、喫煙者を一切採用しないのは、法的に問題ないのだろうか。労働問題にくわしい佐藤正知弁護士は、すでに採用されている従業員と今後の採用募集に分けて解説する。まず、すでに採用されている従業員からだ。

「ある居酒屋チェーン店の店長の労災認定をめぐる裁判では、次のような判断がされています。喫煙時間(タバコ休憩)であっても、何かあれば対応しなければならず、労働から完全に解放されていないのであれば、労働時間に含まれるというものです。

嫌煙家からすれば、不公平感もあるかもしれませんが、短時間であれば、集中力を維持するためにはリフレッシュも必要でしょう。仕事中にお茶を飲んだり、トイレに行ったりするのと同じです。ですので、すでに採用された従業員に対しては、節度が保たれ、他者に害を及ぼしていなければ、喫煙者であることを理由として、不利益な措置をとることは許されません。

一方で、最近話題の奈良県生駒市の方針は、許容範囲でしょう。『喫煙後45分間、エレベーターに乗ることを禁じる』という方針ですが、密閉された空間においてタバコの臭いなどで他者に迷惑を及ぼすことを防ぐためでしょうし、足に不自由がなければ、5階建ての庁舎で階段移動も困難でなさそうだからです」

●「喫煙者を一切採用しない」ことを禁止する法律はない

それでは、採用募集の局面で、喫煙者を一切採用しないというのは「差別」にあたらないのだろうか。

「採用募集の局面では、まったく状況が異なります。使用者には『採用の自由』が保障されているからです。例外的に、法律で明確に禁止されているのは、年齢制限、性別による差別、障がい者差別、労働組合差別など。しかし、喫煙者であることを理由として採用しないことを禁止する法律はありません。

もっとも、憲法は、法の下の平等を保障し、不合理な差別を禁止しており、不合理な差別は違法行為として損害賠償請求の根拠となりえますが、真子社長の掲げた喫煙者を採用しない理由からすれば、不合理とはいえないでしょう」

たとえば、「肥満の人は採用しない」といったことも可能なのだろうか。

「たしかに、単に外見を理由とするのであれば、不合理な差別にあたるでしょう。しかし、健康保持を理由とするのであれば、不合理とはいえないと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

佐藤 正知
佐藤 正知(さとう まさとも)弁護士 横浜法律事務所
神奈川県弁護士会所属。2017年度神奈川県弁護士会副会長。労働者側の労働事件を中心に取り扱う。日本労働弁護団常任幹事。神奈川過労死対策弁護団幹事長。過労死等防止対策推進全国センター幹事。著書「会社で起きている事の7割は法律違反」(共著・朝日新聞出版)等。

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