「夫の転勤が辛くて離婚したい」。そんな悩みが、ネットの相談サイトに投稿されている。相談したのは、転勤族の夫と結婚して9か月弱という30代の女性。それまで都心を離れて生活することがなかったそうで、地方での生活に「ここまで馴染めなくて辛いものだとは思っていなかった」と嘆いている。
美味しいものを食べたり、オシャレなお店を探したりして、前向きになろうと努力はしてみるものの、日常生活の大部分は憂鬱な暗い気分で過ごしているのだという。夜中に夫を起こして泣き叫びながら愚痴を言うこともあるようだ。
相談主は「主人の定年までこういう生活が続くことを考えると暗澹(あんたん)たる思い」として、「このようなことで離婚するような方はいるのでしょうか?」と問いかけている。
もし、裁判で離婚を争うことになった場合、「転勤」はその理由として認められるのだろうか。離婚問題にくわしい高橋善由記弁護士に聞いた。
●「夫が転勤族」というだけでは離婚は認められない
「裁判で離婚が認められるためには、法律で定められた5つの『離婚原因』のうち、どれかに当てはまらなければなりません。
(1)不貞
(2)悪意の遺棄
(3)3年以上の生死不明
(4)配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
(5)その他婚姻を継続し難い重大な事由」
高橋弁護士はこう切り出した。「転勤」は、どれかに当てはまる可能性があるのだろうか。
「当てはまるとすれば(5)その他婚姻を継続し難い重大な事由です。(5)は婚姻関係が破綻して、回復の見込みがない場合をいいます。
ただ、夫が転勤族であることだけでは、直ちに、婚姻を継続し難い重大な事由があるとは判断されないだろうと考えられます」
なぜ、そう言えるのだろうか。
「夫としては、勤務先の業務命令により、転勤せざるを得ないのが通常です。妻としても、夫の転勤に何とか対応する余地もありうることからしますと、転勤族というだけでは、婚姻関係が破綻して、回復の見込みがないとまではいえません」
●夫婦関係が破綻しているかどうかがポイント
そうなると妻は「我慢する」しかないのだろうか。
「ただ、夫が頻繁に転勤となり、転勤した先に馴染めない妻は、非常に辛い思いをすることもわかります。
転勤族である夫としては、そのような妻の状況を理解し、少しでも辛い思いを軽減できるようにしたり、転勤した先に馴染むことができるように配慮をすべきでしょう」
まずは夫が配慮すべきだということだ。それでは、そのような配慮がない場合は……?
「夫がそのような配慮をしなかったことにより、妻がより辛い思いをし、夫と妻の対立が決定的なものになれば、(5)に当てはまり、離婚が認められる可能性が出てきます。
ただし、そうなる前に、まずは夫の転勤問題について、夫婦間でじっくり話し合っていただきたいです」
高橋弁護士はこのように話していた。
遠方への「転勤」は、それまで築いた人間関係や仕事、子育てなど全てに影響する一大事だ。もし夫婦どちらかが勤務先から転勤を命じられる可能性があるならば、普段からしっかりと話し合っておくべきだと言えそうだ。