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離婚調停、弁護士をつけず「おひとりさま」で臨むリスク 5つのポイント
(ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)

離婚調停、弁護士をつけず「おひとりさま」で臨むリスク 5つのポイント

夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。

連載の第10回は「離婚調停、弁護士をつけた方がいいケース」です。離婚調停は弁護士をつけずに本人で申し立てる人も多いですが、調停が成立したり、離婚の合意書を作成してしまった後では、基本的に覆すことはできません。

中村弁護士は「少なくとも5つのケースでは一度弁護士に相談した方が良い」と話します。

●権利があったことを知らずに成立させてしまったケースも

離婚調停は、本人同士で進めているケースもよくあります。訴訟に比べて、厳格な法律上の要件を意識しなくても申し立てることができ、当事者が合意できればそれで成立するので、本人同士で調停を行っているケースもよくあります。

ただ、本人同士で進めていることにより、法律的に認められる解決からほど遠いものになるケースも散見されます。本来であれば認められたものが、本人だけで進めていたために、それらについて十分な議論がなされないまま、調停が成立しているケースが見受けられます。

もちろん、本人が十分理解して、納得した上で成立させているのであれば問題ないのですが、中には、自分にそのような権利があったことを知らずに成立させてしまったというケースもあります。

第8回のコラムでも述べたとおり、 裁判所の調停委員は、「中立の第三者」であって、あなたの味方ではないため、あなたに有利になるような案を教えてくれることは基本的にありません。

そのような後悔をしないために、少なくとも下記のケースでは、一度弁護士に相談し、できれば弁護士に依頼することをお勧めします。

●1「婚姻期間が長い(おおむね5年以上)」

まず、結婚から別居までの婚姻期間が長い場合(おおむね5年以上)です。これは、財産分与が一定額に上る可能性があるからです。

婚姻期間が短い場合、婚姻期間中の夫婦の財産は、それほど増えていないケースが多いです。特に、新婚当初は、結婚式や新居への引っ越し、新婚旅行など、むしろ出費が多いので、お互いの財産はむしろ結婚前から減っているというケースも少なくありません。

しかし、婚姻期間が長くなってくると、徐々に夫婦で貯めた財産が増えていきます。預貯金等は、様々な出費によりそれほど増えていなくても、住宅などを購入した場合は、ローンの返済も徐々に進んで財産が形成されていたり、マンションの場合だと値上がりしているケースもあります。

また、退職金がある場合、婚姻期間中の勤務年数に応じた退職金額が財産分与の対象になりますが、ある程度婚姻期間が長くなってくると、それも分与の対象になってきます。

さらに、結婚前から持っていたお金は、基本的に「特有財産」として財産分与の対象外になりますが、定期預金などで結婚後に手を付けずに残っているような場合でない限り、結婚前に持っていた財産は、夫婦の生活のために徐々に減っていき、逆に、婚姻期間中に働いたお金が増えていきます。

そうすると、婚姻前のお金と婚姻後のお金が混在していき、仮に、婚姻時と同額の預貯金額、あるいは減っていたとしても、現時点の残高が婚姻期間中に夫婦で貯めた財産として認められてしまうことが多くあります。

このように、婚姻期間が長くなってきた場合は、財産分与額が一定額見込まれます。そのため、一度きちんと精査した方がいいケースが多くあります。

婚姻期間が長いか短いかは、様々なケースがあるので一概には言えませんが、私の今までの経験から、ひとつの目安として5年以上か否か、というのをお示ししたいと思います。それより長い場合は、一度ご相談することをお勧めします。

ただ、2年程度でもそれなりに財産が増えているケースもあるので、気になる方は一度相談をされることをお勧めします。

●2「未成年の子がいる」

未成年の子がいる場合、主に(1)親権(及び監護権)、(2)養育費、(3)面会交流の3点が問題となります。そのため、紛争が複雑化するケースが多く、弁護士に依頼されることをお勧めします。

(1)親権について、争いがある場合に弁護士に依頼した方がいいのはもちろんですが、親権に争いがなくても、(2)養育費の額や、(3)面会交流の方法について争われることは多々あります。

特に、養育費の額については、裁判所が出している算定表で機械的に決まると考えられがちですが、そうではありません。お互いの収入額が争われるケースも多々ありますし(例えば、一方が自営業者、途中で昇給している、転勤に伴う引っ越しがあり臨時の手当が支給された、途中で転職したなど)、算定表で考慮されていない特別支出が問題となるケース(例えば、私立学校に通っている、子どもが障害を抱えているなど)もあります。意外に、算定表だけで簡単に決まらないケースも多いのです。

養育費は、長いとこの先20年近くにわたって受け取る、または支払うものです。そのような長期間にわたるものですから、後悔しないようにきっちりと決めることが大切です。

●3「夫婦で収入に差がある」

最近は、共働きで夫婦の収入にそれほど差がないケースもありますが、一方の収入の方が多く、収入に相当程度差がある場合、婚姻費用(生活費)が発生します。特に、おおむね年収で100万円以上の差がある場合には、婚姻費用として一定の額がもらえる可能性があるので、きちんと取り決めておくことをお勧めします。

婚姻費用を決める際にも、上記(2)のケースで述べた養育費同様、算定表に機械的にあてはめるだけでは決まらないケースが多々あります。加えて、婚姻費用は、離婚成立まで発生するものですから、その後の離婚交渉にも影響するため、慎重に決める必要があります。 そのため、弁護士に依頼して、適正な額で決めることが重要なのです。

●4「いずれかに不貞行為や暴力行為がある」

いずれかに不貞行為や暴力行為がある場合、慰謝料が発生する可能性があります。

調停の席においては、訴訟とは異なり、不貞行為や暴力行為があったかどうかについて、白黒はっきりさせるわけではありません。しかし相手方が争ってくる場合は、通常の訴訟と同様、証拠をある程度出して、裁判所にも慰謝料が発生すること(あるいは発生しないこと)を理解してもらい、相手方に働きかけてもらう必要があります。

請求する方の立場で言えば、訴訟でも認められる可能性が高ければ、相手方は観念することもありますし、逆に、請求を受けている方の立場で言えば、きちんと反論して、相手方に諦めてもらう必要があります。それにより、別途訴訟で争うという時間と手間と費用がかかるものを避けることができます。

●5「相手が離婚に同意していない」

相手方が離婚に同意していない場合、離婚訴訟を見据えて、法律上の離婚原因(民法770条)が認められるかどうかを検討しながら調停を進めていくことが必要です。

法律上の離婚原因については、第9回コラムで詳しく説明しましたので、ここでは割愛しますが、離婚訴訟において、法律上の離婚原因が認められる見込みがあるかどうかで、調停の進め方も変わってきます。

このように、離婚訴訟を見据えてしっかりと主張・立証していくためには、訴訟に長けた弁護士の力が必要なのです。

少なくとも、上記の5つのケースでは、納得ができる離婚をするために、弁護士に依頼することをおすすめします。最低でも、一度相談をしてみて、意見を聴いてから依頼するかどうかを考えても遅くはありません。

調停が成立したり、離婚の合意書を作成してしまった後では、基本的に覆すことはできません。納得ができる離婚をするためにも、一度弁護士に相談してみて下さい。

(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

中村 剛
中村 剛(なかむら たけし)弁護士 中村総合法律事務所
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。

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