弁護士からみた「離婚しない方がいい場合」とは? メリットとデメリットを見極めよう
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弁護士からみた「離婚しない方がいい場合」とは? メリットとデメリットを見極めよう

夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。

連載の第9回は「離婚しない方がいい場合」です。離婚はお互いに合意があればすることができますが、一方が離婚に反対している場合が問題となります。それでも離婚を急いだ場合、相手から法外な要求がなされることも少なくありません。

中村弁護士は「離婚しなかった場合のメリットとデメリットを見極めることが重要」と話します。

●「離婚しない」という選択肢を取った方がよい場合もある

私は、今まで多数の離婚相談をお受けしてきました。今までは、その経験から、離婚手続きを進めるにあたっての注意点や、婚姻期間中から離婚に向けた準備などをお伝えしてきました。

私のところにご相談に来られる方のうちの大半は、すでに離婚を決意されていて、いかに自分に有利になるように(あるいは不利にならないように)離婚できるか、という点を軸に相談されます。

しかし、その中で、実は「離婚しない」という選択肢を取った方がよい、ということもあります。今回は、どのような場合に「離婚しない」という決断をした方がいいかについて、お話ししたいと思います。

●判決で離婚が認められるには高いハードルがある

離婚は、お互いの合意があれば、することができます。しかし、一方が離婚に反対している場合に強制的に離婚が認められるためには、「法律上の離婚原因」が必要になります。

法律上の離婚原因は、民法770条1項の1~5号に記載されていますが、要は、5号に記載されている「婚姻を継続し難い重大な事由」が必要になります(1~4号は、5号の例示であると一般的に解釈されています)。

どのような場合に、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかについては、様々なケースがあるのですが、大半のケースでは、「不貞行為」か「暴力行為」の有無が問題となります。相手方に不貞行為または暴力行為(特に、ある程度激しい肉体的な暴力行為)があれば、それだけで「法律上の離婚原因」があると認められることが多いです。

それらがない場合は、様々な事情の積み重ねにより、ある一定ラインを超えた場合に、「法律上の離婚原因」があるとされます。

例えば、浪費や借金、酒癖が悪い、性的不調和、いわゆるモラハラ、相手の親との不仲…などです。このような様々な積み重ねが一定ラインを超えると、判決で離婚が認められるのですが、そのラインを超えないと、「もう少し夫婦で話し合いなさい」と離婚請求が棄却されてしまいます。そのハードルは、簡単に超えられるものではなく、それなりに高いものです。

そして、もうひとつ、大きな事情として考慮されやすいのが、「別居期間」です。別居期間が一定期間を超えると、「婚姻関係を継続し難い重大な事由」があると認められます。

どれくらい別居していたら認められるかについては、婚姻関係の長さや、離婚した場合の相手の影響(例えば、それまでずっと働いておらず、突然離婚されると収入が断たれてしまう場合)など、様々な事情によりますので、一概には言えないのですが、一般的には3~5年程度は必要になります。

また、自分が不貞行為をしてしまった場合など、離婚を請求する側が有責配偶者にあたる場合は、子どもが成人する頃まで認められない(したがって、別居時に子どもが幼い場合は、20年ほど認められない)場合もあります。

また、仮に法律上の離婚原因がある場合であっても、前回のコラムでお話ししたとおり、「調停前置主義」により、まずは調停を行うことが求められていて、いきなり離婚訴訟を提起することはできません。

さらに、離婚訴訟を提起しても、通常は判決まで1年~1年半程度かかりますので、調停と合わせると、判決で離婚ができるまで2年程度はかかります。そのため、相手方に法律上の離婚原因がある場合であっても、早期に(数カ月程度で)離婚することはできません。

このように、強制的に離婚が認められるためには、相当高いハードルを越えなければならないのです。

●無理に離婚を求めると「法外な要求」をされることも

上記のように、強制的に離婚が認められるためには、相当高いハードルを超える必要があります。しかし、相手方が合意してくれれば、そのようなハードルを越える必要がないので、離婚を急いでしまうと、相手方から、離婚に応じる代わりに、法外な要求がなされることがあります。

例えば、以下のような要求です。

・親権を引き渡せ
・養育費は支払わない、あるいは高額な養育費を請求される
・財産分与は渡さない、あるいは高額な財産分与を請求される
・慰謝料を支払わない、あるいは高額な慰謝料を請求される

高いハードルを越えずに早く離婚を成立させたいがために、法律上、本来認められないような相手方の要求も飲まざるを得なくなってしまうのです。

しかし、そのような要求に応じてしまうと、後悔してしまうことがあります。私も、過去のご相談で、以下のようなケースがありました。

<ケース1>
本来は自分が子の親権を取れそうだったが、早く離婚したかったため、子の親権を引き渡す代わりに、面会交流を通常よりも多く認めてもらうなど、頻繁に子との交流を認めてもらうよう合意した。しかし、離婚成立後、一定期間が経ったある日、突如として相手方から子との面会交流を拒否され、その後は子どもと会わせてもらっていない。子どもは相手の下で生活が安定してしまい、今から親権者変更が認められるのは難しい状況になってしまった。
<ケース2>  
早く離婚を成立させたいと思い、養育費を定めずに離婚した。しかし、その後生活費や子どもの教育費などが足りなくなり、子どもに十分なお金をかけてあげることができなくなってしまった。数年後、やっぱり養育費を請求したいと思い、元配偶者に対し養育費調停を申し立て、離婚した後からの分をさかのぼって請求したが、過去にさかのぼって請求することは認められず、調停申立時以降しか認められなかった。
<ケース3>  
財産分与として、何百万円、あるいは何千万円ともらえるはずであったが、早く関係を断ちたかったため、そこについては精算しないまま離婚を成立させた。後で請求しようと思ったら、財産分与の調停を申し立てることができるのは、離婚成立後2年以内であり、すでに調停を申し立てられる期間を過ぎていた。

以上はほんの一例ですが、後からでは取り返しがつかないことが多々あります。どうしても目の前の厄介な揉め事から逃れたいと思ってしまうと、長い目で見ることができなくなってしまい、後悔することになりかねません。

●メリットとデメリットを見極めることが重要!

相手方が出してきた条件が「法外な要求」なのかそうでないのか、受け入れるべきかそうでないかは、十分に見極めなくてはなりません。そのためには、「離婚しなかった場合にどのようなメリット・デメリットがあるのか」を十分に検討する必要があります。

例えば、離婚しなかった場合には、再婚予定のある人には再婚ができないというデメリットがあります。しかし、その予定がない人にとっては、ほとんどデメリットになりません。なお、単に「一緒に暮らしたくない」というだけであれば、別居をすることにより実現できるので、必ずしも離婚を成立させる必要はありません。

また、離婚しなかった場合、離婚成立か別居解消まで、婚姻費用が発生し続けます。婚姻費用は、一般的に養育費よりも高額なため、受け取る方からすれば離婚しないことのメリットになりますし、支払う方からすれば離婚しないことのデメリットになります。

もっとも、メリット・デメリットがどれほど大きいかは、婚姻費用と養育費の差額の大きさによります。それほど変わらなければ、ほとんどメリット・デメリットにならないのに対し、差額が大きければ、メリット・デメリットは大きくなります。

さらに、離婚しなかった場合、財産分与ができません。当面のまとまったお金が必要なのであれば、大きなデメリットになりますが、当面の生活はやりくりできていて、何年か後で構わないということであれば、さほどデメリットにはなりません。

このように、離婚した場合のメリット・デメリット、離婚しなかった場合のメリット・デメリットは様々あり、その大きさも、状況により様々なのです。大切なことは、自分のメリット・デメリットを正しく把握し、それらを比較検討した上で、相手方の要求内容を検討し、どれほど自分にメリットまたはデメリットがあるかを考慮して、最終的に相手方の要求に応じるべきか否かの結論を出すことです。

●デメリットが大きければ「離婚しない」判断も

そして、離婚することによるメリットよりも、デメリットの方が大きいと判断したのであれば、「離婚しない」という判断をすることも重要になります。それにより、相手方の法外な要求を諦めさせ、十分納得のいく結論で終わる可能性が出てくるのです。

このように、メリット・デメリットを正しく把握できないことには、自分の納得のいく結論は得られません。

紛争の最中は、早く終わらせたいと思って焦って判断してしまいがちですが、きちんと専門家に相談し、離婚すること、またはしないことにより、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのかをきちんと確かめた上、第三者の冷静な判断を交えながら、納得のいく結論を得られるようにすることをおすすめします。

(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)

プロフィール

中村 剛
中村 剛(なかむら たけし)弁護士 中村総合法律事務所
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。

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