子どもの親権をめぐって争われている注目の裁判の控訴審が1月26日、東京高裁で判決を迎える。9歳の長女と同居する妻が、別居中の夫との離婚や親権を求めて提訴した裁判で、一審の千葉家裁松戸支部は、長女(当時8歳)と約6年間も会っていない父親に親権を認め、母親側が控訴している。
子どもの親権については、「継続性の原則」が採用されるのが通例とされている。子どもの環境を変えないよう、同居している親に親権を認めるという考えだ。この裁判であれば、長女と同居している母親が親権者として認められる可能性が高かった。
しかし、一審は「両親の愛情を受けて、健全に成長するためには父親に養育されるのが適切だ」として、母親に対し、長女を父親へ引き渡すよう命じていた。母親側が父親に月1回程度の面会交流しか認めなかったのに対し、父親側は年100日の面会交流を約束し、守れなかった場合は親権を譲るなど、より「フレンドリー(寛容)」な条件を提示していたからだ。
●父親側「一審はフレンドリーペアレントルールを採用した画期的な判決」
父親側代理人の上野晃弁護士は、一審判決を「フレンドリーペアレントルール(寛容性の原則)を採用した画期的な判決だ」と語る。
「継続性の原則があったため、これまでは別居に伴い子どもを『連れ去る』という、『勝利の方程式』がありました。結果として、子どもは片方の親の愛情しか受けられないことが多かったのです」
当然、引き離された側の親も苦悩する。今回の父親も、別居後しばらくは面会交流や電話でのやり取りがあったが、ある日を境に長女との接触ができなくなった。最後に長女と話したのは、3歳のとき。もはや長女にとって「赤の他人」だ。
これに対し、フレンドリーペアレントの考えを採用すれば、子どもが双方の親と触れ合う機会が増える。一審判決では、長女が「両親の愛情を受けて健全に成長することを可能とするため」に父親に親権を認めることが相当とした。
しかし、母親側は控訴審でも、父親の面会交流100日に対抗して、条件を緩和するようなことはしなかった。「セリのようにお子さんにとって、有利な条件が釣り上がっていく形を望んでいたのに、残念です」(上野弁護士)
上野弁護士は、「東京高裁でもフレンドリーペアレントルールが認められれば、親権をめぐる判断に与える影響は大きい。裁判の形が変わる可能性がある」と話す。
●母親側「信頼関係が崩れている場合、子どもを何度も行き来させるのは難しい」
一方、母親側から見ると風景は大きく変わる。父親側は、長女を連れて別居した母親の行為を「連れ去り」と非難するが、母親は子どもを置いて別居すれば「置き去り」になると反論する。子育ての大部分は母親が担っていたからだ。
母親側代理人の斉藤秀樹弁護士は、控訴審で面会交流などの条件面で争わなかった理由について、次のように述べる。
「長女には父親の記憶がないのに、すぐに『何日会わせる』と約束するのは無理があります。『両親とより多く会える』と聞くと、素晴らしいことのように感じられますが、個別のケースごとに考えるべきです」
「フレンドリーペアレントルールで、子どもを何度も行き来させるには、ふた親の信頼関係が不可欠。関係が壊れている場合は難しい」
母親側は、一審後の昨年7月、面会交流の条件を別途決めようと、東京家裁に面会交流審判を申し立てた。今度の控訴審判決で長女の親権を認めてもらい、面会交流などの条件については、家裁の審判の中で話し合うことを望んでいる。
そもそも、なぜ6年も会えていないのか。斉藤弁護士は、次のように説明する。
「4年かかった一審や今回の控訴審で、父親側には何度か面会交流を提案しましたが、すべて断られました。また、父親側は一度も面会交流審判を申し立てていません。法的に会おうと思えば、会えるチャンスはあったのです」(斉藤弁護士)
一方、父親側の上野弁護士は、母親側の主張を「法廷戦術」と批判する。「提示された面会交流の条件が折り合わなかった。こちらが不利になるような、恣意的なビデオを撮影される可能性などがあったので、断らざるを得ませんでした」
●子どもの意思は?
控訴審では、母親側が長女の意思を聞くよう、裁判所に依頼した。対する父親側は、同居する母親に歪められる可能性があると主張。裁判所は不採用を決定した。
どちらが勝っても、最高裁までもつれることは必至だが、最高裁は法律をどう適用するかを判断する場所なので、長女の意思が裁判で証拠採用されることはなくなったと考えていいだろう。
双方の弁護士にどのような判決を求めるかを尋ねたところ、答えはどちらも「子どもの未来を考えた判決にしてほしい」という内容だった。