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水1杯800円は「当たり前」と川越シェフ 「暗黙のルール」知らない客も支払べき?
「水1杯800円」という「暗黙のルール」を知らなかった客も支払わなければいけない?

水1杯800円は「当たり前」と川越シェフ 「暗黙のルール」知らない客も支払べき?

人気シェフの川越達也さんが、口コミサイトの投稿で「勝手に水を入れられ、800円をとられた」と店の批判をされたことに対し、「当たり前だよ!」「いい水出してる」などと反論して物議を醸した。

発端となったのは5月下旬、「サイゾー」に掲載された川越さんのインタビュー記事だ。川越さんは「食べログ」のような評価サイトについて「くだらない」「年収300万円、400万円の人が高級店に行って批判を書き込むこともあると思う」とバッサリ切り捨てた。

この発言に対して、非難が殺到。川越さんは6月17日の情報番組「とくダネ!」(フジテレビ)で、「年収に触れたのは不適切だった」と謝罪する一方で、「800円の水」については、値段を伝えるのが正式なやり方だが、スマートに食事してもらうためには、あえて値段を伏せる「暗黙のルール」があると釈明した。

しかし、そんなルールは知らないという人も大勢いるだろう。そういった高級レストランで勝手に水を注がれた場合、法律的にはどういう扱いになるのか。ルールを知らない客でも料金を支払う必要があるのだろうか。消費者問題に詳しい西田広一弁護士に聞いた。

●「暗黙のルール」があっても、知らなければ金を払う必要はない

「レストランで、客と店は『飲食物提供契約』を結びます。『水の料金を支払う義務がある』というためには、水についてもこの契約が成立している必要があります。

もちろん、客と店がいちいち契約書を取り交わすわけではありません。客が注文すれば、それで『契約の申し込み』となり、店側が応じれば『契約成立』になります。契約が成立し、料理が提供されれば、客は店に対してお金を払わなければなりません」

――今回のケースは?「暗黙のルール」で契約が成立していたといえるのか?

「そもそも高級店において、注文の有無にかかわらず、値段を伝えないまま、有料の水をつぐという『暗黙のルール』が存在するかどうか自体、疑問があります。しかし、仮に存在するとしても、そのようなルールを知らない客も当然いるわけです」

――では、ルールを知らない客が、ウエイターに水を注がれた。客は『無料だ』と思い、拒否しなかった。このような場合はどう考えればいいのか?

「店側は『契約申込の意思で水を注いだ』ので『契約申込があった』と主張するかもしれません。しかし、もし水を飲んだとしても、それで『契約を承諾した』とは言えません。

なぜなら、客が水は無料と思っていたとすれば、そもそも『有料の水の提供を受ける契約』を締結する意思がないからです。意思がなければ契約は成立せず、客には料金を支払う義務はありません」

●価格を伝えないで料金をとるのは、信義則に反する

――それでも、水を飲んでしまったら、その分は料金を払わなければならない?

「無効な契約に基づいて一方的に利益を得た場合、それは『不当利得』と言って、返還する義務があります。水を飲んだ客は『水を飲む利益』を受けたことになりますから、店に対して水の原価分は払わなければならないでしょう。

しかし店が客にその価値を知らせずに高価な水を提供し、後から料金を請求するのは『だましたのも同然で、信義則からして許されない』というべきでしょう。つまりアンフェアだということです」

――「800円の水」は想定外?

「店が提供しているのが仕入原価800円もする輸入"高級水"なのか、どこででも買える100円程度のミネラルウォーターなのか、全く違う水なのか、客は簡単にはわからないでしょう。『信義則』からいえば、価値や価格の説明をしなかった店側の責任が大きいといえます。

結局のところ、店は水の代金を全く請求できないか、もしくは、通常のミネラルウォーターの価格である150円〜300円程度を請求できるだけだろうと考えられます」

今回の騒動、何とも後味の悪い結果になった感がある。ものが"高級な水"なだけに、簡単に水に流すというわけにもいかなかったのだろうか・・・・。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

西田 広一
西田 広一(にしだ ひろいち)弁護士 弁護士法人西田広一法律事務所
1956年、石川県小松市生まれ。95年に弁護士登録(大阪弁護士会)。大阪を拠点に活動。大阪弁護士会消費者保護委員会委員。関西学院大学非常勤講師。最近の興味関心は、読書(歴史小説)、食品の安全、発達障害など。

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