公益財団法人「日本サイクリング協会」(東京都品川区)が、コンサルティング会社に資産運用を委託した約3億円のうち、約2億7000万円が回収できなくなっていることがわかったと読売新聞(6月26日付)で報じられた。協会は、記事の内容について「概ね事実」とウェブサイト上で発表した。
読売新聞などによると、同協会は2011年、コンサルティング会社に資産運用を相談した。その際に「シンガポールの銀行の割引円建て債を約2億6000万円で購入すれば、3年後に3億円になる。その他、約4000万円の利息も入る」などの説明を受けて、資産運用の契約を結び、約2億6000万円を会社の口座に入金した。
2014年には、資金が3億円になったとして、協会はこの3億円の運用をあらためて契約した。ところが今年、会社から「預かった金は無関係の事業などに投資し、焦げ付かせた」という説明を受けた。協会はこれまでに約3000万円を返却させたが、残りの約2億7000万円は回収できていないという。
一般的に、運用を委託した資金が焦げ付いた場合、委託された側の返済義務は法的にどうなるのだろうか。また、説明と関係ない事業に投資されていた場合は、どうなるのだろうか。大和弘幸弁護士に聞いた。
●どんな契約を結んでいたか?
「一般的に、資産運用を委託した側とされた側との間で、何らかの『資産運用委託契約』を結ぶことになります。
どのような方針で資産運用するかは、具体的な契約内容に依拠することになります。その内容によっては、運用受託者に広い裁量権をあたえる契約もありうるでしょう」
大和弁護士はこのように切り出した。もし、当初の説明と異なる形で運用された場合はどうなるのだろうか。
「具体的な債券の購入を指定したにもかかわらず、それ以外の事業に投資したということであれば、契約違反となります。そうであれば、委託された側は、民事責任(損害賠償責任)を負うことは免れないように思います。
また、委託された側が契約当初から、その債券を購入するつもりがなく、投資金額をだまし取ったり(詐欺)、預かった資金を自己のために領得していたり(業務上横領)、運用責任者が自己の利益を図ったり、協会に損害を加える目的で契約に違反して委託した側に財産上の損害を与えた(背任)ということであれば、刑事責任が問題となりえます」
●運用資金が焦げ付いた場合、自己責任になる?
そもそも運用資金を焦げ付かせた場合、委託した側の責任はどうなるか。
「委託された運用資金が焦げ付いたからというだけで、当然に法的責任が生じるわけではありません。
もし仮に、委託した側が指定した債券を委託された側が購入した場合、その債券の価値が暴落して、運用資金が焦げ付いたという場合であれば、原則として、委託した側の自己責任ということになります。
もちろん、説明が不十分だったり、虚偽だった場合には、委託された側の責任が問題となります。
また、一般に、金融商品取引業者には、投資家の知識や経験、財産の状況および契約締結目的に照らして、不適当な勧誘をおこなうことはできません(適合性原則)。この場合、委託した側にとって、この債券が投資目的などに照らして、ふさわしい商品であったかどうかが問題となります」
●事実関係の解明が待たれる
これまでの説明を今回のケースに当てはめて、注目すべきポイントはどこか。
「委託された会社は、2011年当初から円建債を購入していなかったのか、それとも2011年当初は債券を購入し3年後予定どおり3億円で満期償還されたが、そのあと無関係の事業に投資して焦げ付かせたのか、現時点での報道等から事実関係が明らかでありません。その点の解明が待たれます。
2011年当初より債券を購入していなかったということであれば、極めて悪質なケースでしょう。
一方で、2014年でいったん3億円が償還されていれば、少なくともその時点までは問題はないことになります。その後、結んだ新しい契約の内容、投資方針、投資対象などの内容に会社側が違反したかが問題となってきます。
2014年に資金が3億円になったということを協会が当時、きちんと確認したのかもポイントになってくるでしょう」
大和弁護士はこのように述べていた。