保育士のあり方をめぐって議論が起こっている。厚生労働省が、幼稚園や小学校教諭の資格を持つ人も認可保育所で働けるように検討していると、報道されたからだ。
検討されているのは、保育所で預かる子どもの年齢や人数に応じて定められている保育士の「配置人数」について、3分の1までを幼稚園や小学校、養護の教諭で代替できるようにするというものだ。幼稚園教諭は3~5歳児、小学校教諭は主に5歳児の保育を担い、養護教諭は対象年齢を定めない。
ツイッター上では、現役の保育士や保育士志望の学生から「保育士不足だからって見直す所間違ってる」「命を預かる仕事で無資格の人が働くのは怖い」といった批判的な声が多く上がっている。また、「保育士不足を解消するためには、資格の規制緩和ではなく、賃金を上げることが必要」と主張する声もあった。
今回の厚労省の方針について、保育の問題に詳しい弁護士はどう見ているのだろうか。大井琢弁護士に聞いた。
●子どもの「保育を受ける権利」を侵害する
「保育士は、乳幼児期の子どもの養護(ケア)と育ちを専門とする職業です。主に5歳児以上の教育や養護を専門とする幼稚園や小学校、養護の教諭とは、専門性が全く異なります」
大井弁護士はこのように説明する。今回の方針は、子どもの側からみても、大きな問題があるという。
「子どもは年代によって、必要とされる養護(ケア)と育ちの中身が大きく違うので、乳幼児期の子どもが質の高い保育を受けるためには、保育士がもっている専門性が必要不可欠です。
保育士が不足しているからといって、幼稚園や小学校、養護の教諭で代替しようとするのは、乳幼児期の子どもが質の高い保育、つまり、十分な養護(ケア)を受け、育つ機会を保障される権利(保育を受ける権利)を侵害するものです。
そればかりか、幼稚園や小学校の教諭について、3~5歳児(もしくは5歳児)だけを対象とするのだとしたら、待機児童の約8割を占める0~2歳児を見ることができる保育士が不足している現状を打開することができず、その意味でも、有効な施策とはいえません」
では、どうやって保育士不足を解消すればいいだろうか。
「保育士の不足は、介護士の不足と同様、保育士の待遇(給与など)が良くないことによって生じていることは、周知の事実です。まず、保育士の待遇改善を図り、保育士有資格者の就職や復職を促すことこそが有効な施策です。
日本の未来を支える子どもたちのためにかけるべきお金をケチって、日本の子どもたち、ひいては、日本の未来を暗いものにしてしまうことは、本末転倒です」