「スマホ新法」が12月に施行されました。iPhoneではApp Store以外からでもアプリをダウンロードできるようになるなど、これまでの仕組みが変わります。
ユーザーにとっては、これまでより安価にアプリを手に入れられるなどのメリットが期待されていますが、具体的に何がどう変わるのでしょうか。
●公式ストア以外を使うときは慎重に
スマホ新法は、「指定事業者」(今回はApple社とGoogle社)に対して制限を課すことで、自由な競争を促すものです。
「指定」にはいくつかの種類(OS、アプリストア、ブラウザ)があり、それぞれ問題はありますが、私たちユーザーにとってもっとも大きな変化を挙げるとすれば、アプリストアや課金システムが開放されることで、自分で判断しなければならない場面が増えることです。
たとえば、本法は、指定事業者に対して、正当な理由がない限り、他社のアプリストアの提供を妨げてはいけないと定めています。
これまでは、iPhoneであればApp Storeが、アプリの審査や決済システムを一元管理することで、セキュリティや返金対応などの安全性を守ってくれていました。いわば「安全な庭」の中で保護されている状態です。
しかし、今後、他社製のアプリストアが増えてくることが予想され、公式アプリストア経由ではない決済が増えてくると、Appleは関与しきれない可能性が高まります。
たしかに、公式ストア経由のアプリでも、問題のあるものはこれまでにもありました。しかし、公式ストアを介さないアプリをダウンロードし、利用する方が、トラブル(不正請求やマルウェア感染など)が起こるリスクは高まる可能性が高いでしょう。
もちろん、消費者保護のための法律(特定商取引法や消費者契約法など)は引き続き適用されますので、完全に自己責任というわけではありません。
ただ、公式ストアが間に入っていた場合と比べると、トラブル解決の道筋が複雑になる可能性があります。
●デジタルプラットフォーム規制の流れ
今回の法律は、近年のデジタルプラットフォームに対する行政の関与という大きな流れの中に位置づけられます。デジタルプラットフォームは、もはや単に一企業が「場を提供する」サービスではなく、水道や電気と同じような「社会インフラ」としての性質を持つようになってきており、行政による一定の関与が必要と考えられるようになってきています。
これに対応するため、国は近年「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(2021年2月1日施行)や電気通信事業法の改正などを通じて、プラットフォーム事業者の透明性・公正性を向上するためのルールを強化してきました。
スマホ新法も、この延長線上にあるといえます。
●欧州の法律と比べると慎重な態度?
日本のスマホ新法は、ヨーロッパのデジタル市場法(DMA)を参考にしています。
DMAとは、大企業が市場を支配することを防ぎ、新規参入を可能にすることで、デジタル市場における競争を促すことを目的とする法律です。
ただ、DMAと比べると、日本のスマホ新法の方が、指定事業者(AppleやGoogle)に対する規制に慎重な姿勢を見せている部分もあります。
たとえば、アプリストアを介さず、ウェブサイトから直接アプリをダウンロードする「サイドローディング」については、セキュリティリスクを考慮して、ヨーロッパとは違い義務化の対象外とされています(「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律の概要」公正取引委員会、2024年9月)。
また、これはDMAでも同様の規定はあるのですが、プラットフォーム事業者側に「正当な理由」がある場合、指定事業者側が外部の事業者の参入に対して様々な制限を課すことが可能となっています。
この「正当な理由」の具体例がどのようなものかは、まだ法律の規定も裁判例もなく分からない状況ですが、参議院経済産業委員会の附帯決議(2024年6月11日)では、以下のように示されています。
「アプリストア等の開放により、有害・違法なアプリ等が提供されるリスクが高まることがないよう、正当化事由に関する具体的な考え方等を示す指針の策定・運用に当たっては、関係行政機関、関係団体、指定事業者を含む民間事業者や消費者・ユーザー代表等の知見を十分に活用し、セキュリティの確保、プライバシー保護、青少年保護、消費者保護等が確実に図られるものとなるよう取り組むこと。」(附帯決議「四」)
したがって、セキュリティの確保やプライバシー保護、未成年者や消費者の保護などを目的とする場合は、他社ストアを制限したり手数料を設定したりすることが「正当な理由」として認められる余地があります。
ただし、どのような場合にこれらの場合にあたるのかは不透明な状況です。
●今後どうなる?
施行されたばかりで先行きは不透明です。良い方向に行く可能性も、悪い方向に行く可能性もあります。
スマホ新法は、指定事業者に制限を課して自由競争を促すものなので、うまくいけば私たちユーザーの選択肢が広がり、より安く、より便利にサービスを利用できるようになるでしょう。
ただし、指定事業者側からすると、長年コストをかけて作り上げてきたシステムを開放することには抵抗感があるかもしれません。たとえば、自社以外のアプリストアの健全性について自社がコストをかけて審査を徹底するインセンティブは働きにくく、他社のアプリストアで配信されるアプリの信頼性をどう確保するかが今後の課題になりそうです。
また、詳しい解説は省きますが、スマホ新法はOS(基本システム)に関する規制も含んでいます。たとえばiPhoneとAirPodsやApple Watch、Macとのスムーズな連携、いわゆるAppleエコシステムなどについても、他社に開放するよりも日本での提供の制限などを行う方向に向かう可能性は今のところ否定できません。
ただし、事業者側が「技術を開放するとセキュリティリスクが高まる」として、それが「正当な理由」に当たると主張すれば、現状とあまり変わらない状況が続くかもしれません。
今後、指定事業者側が主張する「正当な理由」が、本当にユーザー保護のためのものなのか、それとも競争相手を排除するための口実なのかも争われるかもしれません。
(参考資料)※本文中に挙げたもの以外
「日本社会のDXと法」(法律時報97巻2号、2025年8月、日本評論社/巽智彦)
「聴ける!実用法律書 改訂新版 図解で早わかり 独占禁止法・景品表示法・下請法」(2025年11月、三修社/森公任)
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)