俳優のんさんの写真を無断で加工した画像がXで拡散されているとして、のんさんとエージェント契約を結んでいる会社「スピーディ」が6月1日、ホームページで「誤った情報の拡散に加担されることのないよう、冷静なご対応を」と呼びかけている。
具体的にどのような画像が問題とされているかは不明だが、弁護士ドットコムニュースの記者はX上で、のんさんの見た目をした顔写真に裸の身体を組み合わせたような画像が投稿されているのを見かけた。
スピーディ社は「本人の名誉を毀損し得る深刻な問題と受け止めており、弁護士と連携のうえ、該当投稿の保全などを進めております」と説明。「スピーディ権利侵害対策チームアカウント」を立ち上げ、悪質な投稿の監視や通報体制を強化していくとしている。
顔をすげ替えた写真や動画は「アイコラ」や「ディープフェイク」と呼ばれる。このように芸能人の写真を無断で加工しネット上に投稿する行為はどのような法的問題になるのか。インターネットのトラブルにくわしい清水陽平弁護士に聞いた。
●著作権や名誉権の侵害になりうる
──芸能人の写真を無断で加工しネット上に投稿する行為について、刑事と民事のそれぞれでどのような問題に問われる可能性がある?
さまざまな観点で問題になりえますが、まずはネット上にある写真を勝手に使用しているケースがほとんどでしょうから、撮影者などの著作権や著作者人格権(同一性保持権)侵害になる可能性が高いといえます。
また、肖像を意図しない形で利用されているという点で、のんさんに対する肖像権侵害も成立する可能性が高いといえます。
さらに、加工の内容次第ですが、たとえば裸の写真と組み合わせている場合は、のんさんに対する名誉権侵害となる可能性が高いといえます。
これらは基本的には民事上の責任ですが、著作権侵害と名誉毀損については、刑法上の問題も生じることになります。
●加工するのが写真か動画かは関係ない
──写真と動画では、法的責任の重さに違いは生じる?
写真か動画かということで責任の有無に違いが出ることはないといえます。
ただし、動画のほうが情報量が多かったり、真実性が高いと受けとられたりする可能性が高いことから、その内容次第ではありますが、結果として責任が重く判断される例はあるかもしれません。
●賠償額には発信者特定の費用も加算される
──民事上で不法行為が成立するとして、損害賠償はいくらくらいになる?
損害賠償の額は、その内容や執拗性、悪質性などの事情が考慮されることから、いくらということはなかなか難しいのですが、一般論としては、名誉権侵害であれば30万〜60万円の範囲になることは多いといえます。
ただし、芸能人の場合、イメージの悪化は仕事に直結するという側面があることから、これよりも賠償額が多く判断される可能性は高いといえます。
また、発信者の特定のために費用がかかるのが通常ですが、その特定のための費用の賠償も求めることができることから、100万円以上の賠償を要するケースも考えられるでしょう。